NEXT WEEKEND DATE

「だんらん」を辞書で引くと、「親しい者たちが集まって楽しく時を過ごすこと」。

何かこれといって目的があるわけではない、泡のように消えていく楽しい時間。

でも、その積み重ねが、家族や大切な人を支える大きなパワーになるかもしれない。

いろいろな家庭のだんらんの形を、住まいや暮らしの工夫から読み解く連載「家族がつながる、だんらんの部屋づくり」がスタート。

最初に登場するのは、今年長崎県での新生活を始めた、NEXTWEEKEND代表・村上萌。
(NEXTWEEKENDの中の人ではありますが、この取材記事では以下「萌さん」と呼ばせていただきます)

前編と後編に分け、萌さんのだんらんのスタイルや、部屋づくりのエピソード、萌さんのルーツとなるだんらん体験などをご紹介します。

家族で夜ごはんを食べ終わった午後8時ごろ。

夫の都倉賢さんが、コーヒーメーカーのスイッチを入れるのが、だんらんの始まりの合図。

やわらかな明かりが灯るリビングのテーブルの上には、庭でつんだ花と季節のフルーツ。

萌さんが色とりどりのアソートのチョコレートを出すと、「どれにしようか?」と、娘の杏ちゃんを囲んでじゃんけん大会に。

「今日、どんなことがあった?」「打ち合わせでこんなやりとりがあってね」。

デカフェのコーヒーを片手に、時間がゆったりと流れていきます。

 

「食後のデザート」は話がふくらむ魔法のアイテム

萌さんは、賢さんと3歳になる杏ちゃんとの3人暮らし。

仕事や夜ごはんを終えて、食後に家族と軽いデザートで一息つくひとときが、だんらんの時間になっています。

だんらんを心弾む時間にするために、萌さんが準備しておくのが、季節のフルーツやちょっとしたお菓子。

「私の実家では、人が集まる時はいろいろな種類のケーキを買う習慣があって、いつもどれにするかじゃんけんで決めていたんです。
今、うちは3人家族ですが、アソートタイプのお菓子だと、やっぱりじゃんけんでひとしきり盛り上がるんですよね。
話題性のあるスイーツって、だんらんを楽しくしてくれるな、と思います。
娘も週に1回くらいはクッキーを焼いて、だんらんの時間に出してくれるんですよ」

時間がないと難しそうなイメージがあるお菓子づくりですが、ほんのひと工夫で手軽にできるそう。

「生地を一度に5回分くらいつくって、小分けにして冷凍しておくんです。
保育園の帰り道に娘から『今日はクッキーを焼きたい』と言われたら、家に帰って冷凍庫から出しておくだけ。
夜ごはんの後にはちょうどいい固さになっているから、そこから15分くらいでできちゃうんです」


▲焼きたてのクッキーを食べる時間は最高のぜいたく。
杏ちゃんが「これはこんなふうに形をつくったの」なんて話をしてくれることも。

 

だんらんを通じて、相手の予定や状況を把握

「うちのリビングのテーブルには、『FAMILY NOTE』や、NEXTWEEKENDのオリジナルカレンダーが置いてあるんですけど、家族がすぐに書き込めるように、楽しい文房具セットを用意しているんです。
夫が『これ書いてみようかな』と言った瞬間、そのセットをばっと出すと、楽しんでやってくれたりするので」

この書き込むという作業、レクリエーションとして楽しいだけでなく、家族が考えていることや、予定を把握するのにも役立っているそう。

「一緒に書き込むことで、自然に相手の考えや予定もシェアできるんですよね。
そうすると『そんな話、聞いてないよ』みたいなすれちがいも防げるんです。
うちの夫はアスリートという職業で予定もイレギュラーですが、試合には万全な体制で臨めるように私も娘も気をつけたいですし、逆に私がトークショーやプレゼンで緊張しているような日は、夫が『今日は萌が試合の日だね』と言って家事を代わってくれます。
家族の大事な日を把握しているから、お互いをサポートできるのかな、と思います」


▲カラーペン入れや、ハサミ入れなど、気持ちが上がる文房具セットはいつもテーブルの近くに。
気分が乗ったらすぐに書けるようにしておくのが、家族を巻き込む秘訣。

 

時には場を変えると気持ちも一新

毎日のだんらんも、たまに遊び心で変化をつけると、新鮮な気分で楽しめると言います。

「いつもはリビングでだんらんすることが多いんですが、おいしい最中をいただいた日などは、別の和室に移動することもあるんです。
旅館のチェックインみたいな気分で、ちゃんと急須でお茶を入れたりして。
部屋に合ったテーマを決めて、ちょっとした小技を利かせると、だんらんがさらに盛り上がります」


▲洗練されたデザインのラグや照明などを取り入れた、モダンな雰囲気の和室。
ここでのだんらんが気に入ったのか、最近は家族から「今日は和室に行こう」と提案されることも。

 

夜ごはんのあとは携帯を置いて

萌さんがだんらんで意識しているのは、家族で一緒に楽しい時間を“つくる”こと。

「家族といても仕事のことを考えてしまったり、携帯を見てしまうことってありますよね。
そうすると他の家族も、自分も携帯をいじっていいや、みたいな空気になって。
ある日、夫が『食卓でお互いにそういう雰囲気をつくってしまうのは嫌だから、ここに携帯を置こう』と言ってくれたんです。
それで携帯を置くようになってからは、以前にもまして話をするようになりましたね」

ただ同じ空間にいるだけでなく、一緒にいる時間を大切にする姿勢。

それは娘の杏ちゃんからも教わることが多いそう。

「私が適当に何かをしながら杏の話を聞いていると、すごく怒るんですよ。
眉毛をぐっと下げて、『ねえ、今お話しているんだからちゃんと聞いて!』って。
ただあいづちを打つだけではダメで、ちゃんと質問してほしいし、リアクションしてほしいんですよね。
娘に『携帯置いて』って言われた時は本当に落ち込みましたね」


▲「杏は携帯を持っていない分、今という時を本質的に見ているのかも」と萌さん。
夕食の後、賢さんと萌さんが携帯に気を取られていると、「今日はりんごとか食べないの?」とだんらんを促してくれるそう。

 

だんらんの部屋ができるまで

光が注ぐ明るい部屋に、ゆったりと置かれたやさしい色調のインテリア。
目を和ませるグリーン。

いかにも居心地がよさそうな萌さんの家ですが、最初からこの姿ではありませんでした。

萌さんが長崎に引っ越してきたのは、今年の2月のこと。

急な転勤で、家探しにかけられたのは2日間。

飛行機の離陸時間が迫る中、制限時間10分で訪れたのが、今住む一軒家でした。

「時間がないから、もう直感で選ぶしかなくて。
住宅って、立地は自分で変えられないですよね。
この家は高台にあって、日当たりがよさそうだったのが決め手でした。
窓を開けた時に気持ちのいい風が入ってきたような気がして、ここに賭けよう、と思いました。
家の中がイメージと少し違っていても、後から自分でどうにかできるから」

一軒家を選んだ理由は、長崎という土地でどう暮らすかを考えた結果だと言います。

「大阪にいた時に住んでいたのは、街なかにある便利なマンション。
長崎でも同じような家を探そうとすると、どうしてもそこと比較してしまいそうで。
せっかく自然豊かな長崎に住むなら、娘が裸足で外に出られるような家がいい。
天気がいい日は外に出たり、夏は庭で花火をしたり……
そう思ったら一軒家が選択肢に入ってきました」

とはいえ、それまで住んでいたマンションとは大きく異なる和室の多い一軒家。
萌さんの頭はフル回転を始めました。

「よく服を着る時に、体型の嫌いな部分を隠すより活かすほうがいい、なんて言いますよね。
部屋も同じで隠そうとすると、ちょっと見えるだけでも気になってしまいそうで。
いっそ『和』を活かして、和洋折衷というテーマで部屋づくりをしようかなって」

まず着手したのは、リビングの改造。

洋室のリビングの一部には畳敷きのエリアがあり、そこに鎮座する掘りごたつや和風のしつらえと、今まで愛用してきた家具が不協和音を起こしていました。

「掘りごたつは、冬はありがたい存在なんですが、家具の配置にどうしても制約が出てしまうんですよね。
大工さんに板を打ちつけてもらって、ラグを敷いてみることにしました。
布は面積が大きい分、ガラッと印象を変えてくれるんです。
ラグが和と洋をつなぐ存在になってくれましたね。
他にもカーテンやクッション、照明……etc.
インテリアの力を借りて、ようやく心からくつろげるリビングになりました」


▲カスタマイズ前の畳敷きのエリア。
お気に入りのビッグサイズのソファを置こうとしても、掘りごたつがあると窮屈で、どうにも「仮住まい感」が拭えない……。


▲掘りごたつを下に埋めて、サイドテーブルをソファの前に移動したら、やっと落ち着く配置に!
ラグやクッションは和室にもなじむ色や柄をセレクト。
あちこちに置かれたグリーンは庭の緑と相まって部屋を爽やかに演出。


▲テレビを見ないため不要だったテレビ用スペースには、マガジンラックを設置。
お気に入りの本を飾ったり、ポップなポスターを置くことで、部屋に生き生きとした表情が。

もうひとつ大きなカスタマイズが、窓の外に濡れ縁を設置したこと。

家と庭の間に縁側というスペースができたことで、住みやすさが断然変わってきたと言います。

「昔から縁側に憧れがあったんですが、残念なことにこの家にはなくて。
2か所の窓をつなぐように長い濡れ縁を置いて、外からも部屋の行き来ができるようにしたら、空間をさらに楽しく使えるようになりました。
コーヒー休憩をしたり、休日はビールを飲みながら、庭のプールで遊ぶ娘を眺めたり。
縁側のある暮らしをあきらめなくてよかった、と日々思っています」


▲濡れ縁はネット通販で購入して、大工さんに取り付けを依頼。
いまや縁側は家族だんらんのスペースとして欠かせない場所になっているそう。

最初から理想的な住まいに出会えるとは限らない。

それでも家族でこんなふうに過ごしたいという思いを大切にしていれば、できることは必ずある。

住まいの居心地がよくなったことで、だんらんの時間がますます楽しくなったと語る萌さんから、そんな勇気をもらいました。

インタビュー後編では、おうちを理想に近づけるためのステップをご紹介します。

 

おまけ
インテリアショップは部屋づくりの味方!

部屋の雰囲気を変えたい時に強力な助っ人になるのがインテリア。
萌さんのだんらんの部屋づくりにも欠かせない、愛用のショップを教えてもらいました。

ASPLUND
インポートものが中心で、大きめのゆったりくつろげる家具が見つかるインテリアショップ。
リビングの白いソファやスツールなど、基本のインテリアはASPLUNDで選んだものが多いそう。

オルネ ド フォイユ
海外から仕入れた照明やファブリックを始め、雰囲気のあるアイテムが揃うインテリア・雑貨店。
「オランダからやってきたヴィンテージランプ」など、ストーリー性のあるインテリアに胸がときめきます。

ACME Furniture
ラグのように直に触れることが多い布ものは、ヴィンテージだとホコリなどが気になる場合も。
そんな時に重宝するのが、ヴィンテージテイストのオリジナル商品が揃うACME。
ラグに安心して寝転がれます。

flame
オリジナルの照明器具メーカー。
萌さんが大阪に住んでいた頃よく行ったのが、芦屋にあるおうちのようなショールーム。
照明器具がインテリアになじむように配され、明かりのある暮らしをイメージできます。

FLYMEe
日本最大級の家具やインテリアの通販サイト。
カテゴリーやブランド以外にも「和風」「北欧」などテーマで検索することができるので、「和室に合う家具をどこで探したらいいかわからない」なんて時に便利。


▲和室に置いた照明は、FLYMEeでキーワード検索から見つけたもの。
「岐阜の職人さんがつくっているものだそうですが、普通に探したらたどりつけなかったと思います」と萌さん。

文章:野田りえ
家族の写真:中嶋史治

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