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さまざまな夫婦のかたちを届ける連載「ふたりのこと」。

第5回に登場するのはみずみずしく伸びやかな色彩が印象的なイラストレーター・湯浅望さんと、エンジニアとして働く上原拓真さん(たくちゃん)です。

ふたりは長く東京で暮らしていましたが、家族の将来を考えた結果、2019年にニュージーランドへ移住。
以前より肩の力を抜いてのびのび暮らせるようになったそう。

そんな望さん夫婦の愛しいルールはこちら。

 

家族の幸福度で住む場所を選ぶ

望さんと拓真さんは2013年に結婚し、現在7歳と2歳の男の子と4人でニュージーランドに暮らしています。

もともと仕事上の知り合いだったふたりの距離が近づいたきっかけは、拓真さんがハマっていたボルダリングに望さんがついていったこと。

 
望:
「たくちゃんのことがすごく好きだったので勝手についていきました(笑)
そこでアピールしまくってお付き合いに至ったんです」

 
どこが好きでしたか?と伺うと間髪入れずに「顔です」と嬉しそうに話す望さん。

 
望:
「学生時代に一番好きな俳優が山田孝之で、顔は濃ければ濃いほど好み(笑)
あと家族思いで、自分の家族に加え私の家族も大事にしてくれたのが嬉しかった」

 


▲移住前は「ニュージーランド=羊のイメージしかなかった」と笑う拓真さん

 
拓真さんに結婚の決め手は?と聞くとしばし沈黙の後「ありのままの僕を好きになってくれたからです」と。

 
拓真:
「昔、望の誕生日デートに寝坊して。それって結構ルーズで難ありじゃないですか(笑)
それでも良いって言ってくれたので気が合うと思いました」

 
お子さんの視野を広げたいという想いから2年前に一家全員でニュージーランドへ移住。

家族の幸せをその都度見つめて、住む場所を選ぶのがふたりらしさです。

 
望:
「東京にいた頃、周りに国際結婚カップルがたくさんいて影響されたことが大きいです。
このまま仲の良い友だちに囲まれて過ごすのは楽しい一方で、息子はマイノリティの人の気持ちをあまり理解せず生きていくことになるかもしれないと思って」

 

▲晴れた休日は家族そろってビーチへ

 
望:
「それは悪いことではないけど視野が狭くなるのはもったいない。
ニュージーランドはさまざま人種が助け合いながら暮らしていることを知り、息子に体感してほしくて。
たくちゃんに相談したら『いいんじゃない?』って」

拓真:
「やってみないと分からないもんね。
合わなかったら1ヶ月で帰国したっていいし」

望:
「私はイラストレーター、たくちゃんはウェブサイトのエンジニア。
東京にいなくても続けられる職業であることも大きかったです」

 


▲大自然の中で遊ぶことが日課になりました

 
拓真:
「ニュージーランドでは子どもが本来あるべき姿で過ごせている気がします。
例えば走り回るのは子どもにとって当たり前の行動なのに、東京だと周りに迷惑だからやめさせないといけない場面もある。
それって不必要な制限ですよね。
ここではそんなこと気にせずのびのび過ごせるので、子どもも親もみんな幸せです」

 

ルールは作らない・引きずらない・受け入れる

望さん夫婦の1つ目のルールは「そもそも背伸びしたルールは作らない」。

このスタンスにふたりらしさが表れているように感じます。

 
望:
「私たちは何でも話して何でも共有しています。
家庭の話に加えてママ友のことも仕事の目標も何でも話すので大きなすれ違いが起きない。
だからルールを作る必要があまりないんです」

拓真:
「机並べて仕事して、子どもの送り迎えして、買い物行って、寝かしつけて、寝る。
24時間一緒にいてその都度話すから『え、そうだったの?聞いてない!』みたいなことが起きないよね」

 
小さな言い合いをしても引きずらず、すぐ和解するのもふたりのいいところ。

実はもともと望さんは引きずるタイプ、でも拓真さんに影響を受けて変化していったのだそう。

 
望:
「私が拗ねていてもたくちゃんが『望〜ジュース飲む〜?』って話しかけてくれるから戦闘モードを解除しやすくて。
引きずると疲れるし私も徐々に変わっていきました」

 

▲お子さんを学校へ送っていった後、ふたりで散歩するのが朝の日課

 

拓真:

「僕、沸点が低いんです。
鍵閉めてないじゃん!とか些細なことで怒っちゃうんですけど、ずっと怒ってるとエネルギー使いますよね。
だからすぐ感情が切り替わるみたいです」

望:
「たくちゃん見てると面白いですよ。
すごい剣幕で怒って、庭でタバコ吸って戻ってきたら機嫌直ってるから(笑)」

 
でも素朴な疑問が一つ思い浮かびました。
例えば家事をルールなしにうまく分担するのってなかなか難しいのでは…?

すると「たくちゃんは家事をしないから(笑)」と望さん。

 

望:

「声をかけたらやってくれますけど、もう、気持ちいいほどやらないので(笑)」

拓真:
「力仕事は申し訳程度にしますが、基本、指示待ちなんです」

 


▲朝の散歩は拓真さんが淹れた珈琲をお供に

 
お互いがそのバランスに納得しているから、相手を責めることもないし、ルールを設ける必要がないようです。

 
望:
「結婚前から分かっていたので期待してもしょうがない。
諦めではなく、そういう所も含めて彼を好きなので理解しています。
とはいえニュージーランドに来て少しするようになったね」

拓真:
「ニュージーランドには “キウイハズバンド”という言葉があって、夫は仕事も家事も育児もして完璧という価値観がある。
例えば大企業の社長でも保護者会に積極的に参加します。
そういう所に影響されているかもしれません」

 

いつも一緒が何より大事

ふたりは“家族一緒”を大事にしています。
自分と家族の間に線を引かず、幼なじみから仕事先の人まで共有。

何か誘われたら家族みんなで行くのが当たり前で、いつだってカルガモの親子のように一緒なのだそう。

 
望:
「私が好きな人はたくちゃんや息子に紹介したいし一緒に遊びたい。
例えば私とママ友2人で会えば事足りるのかもしれないけど、たくちゃんがいた方が楽しい。
だから自然とみんなで夕飯食べたりキャンプに行ったりして家族ぐるみで仲良くなるね」

 


▲ニュージーランドで出会ったドイツ人家族とキャンプ
 

拓真:

「ニュージーランドにいるのも大きいです。
今いる場所は公共交通機関が充実していないので、移動は車か自転車か徒歩がメイン。
望は免許を持っていないからどこかに行く時は僕が運転する必要があります。
逆に僕は英語を話せないから望に頼らざるをえない。
となるとどこへ行くにも一緒になっちゃう(笑)」


望:

「買い物も子どもの送迎もたくちゃんの趣味の釣りも全部一緒だから『いつも一緒にいるの?』って驚かれるよね。
私が友だちの家に行くときもたくちゃんはついてきてくれて『英語だから何言ってるか分からないけど、いい人たちだね』って(笑)」

 


▲みんなお出かけが大好き。お気に入りのビーガンアイス屋で

 
望:
「私は母と兄と仲良しで、悲しいときや辛いときの心のよりどころが家族でした。
だから家族を大事にするし、子どもたちにも『あったかい家庭で育った』と思ってもらえると嬉しい」

 

家族は完璧じゃないからいい

インタビューは東京とニュージーランドをzoomでつないで行われました。

物理的には遠く離れているのに、自然体な雰囲気は画面越しでも伝わってきます。

ふたりらしさの秘密はどこにあるのでしょう。

 

望:
「お互い完璧を求めていないのが大きいかもしれません。
たくちゃんを完璧な人だと思っていないし、たくちゃんも私のことを完璧だと思ってないから、何かあっても『まあそんなもんだよね、お互い』って(笑)」
 

▲拓真さんがソファーでうたた寝していると、くっついて離れない次男くん

 
拓真:
「例えば僕は英語が話せないし、望は車を運転できない。
できないことを責めるのではなく助けあえばいいと思っています」

 
そのスタンスはお子さんにも同様です。

親としてきちんとした姿を見せたいと気負うのではなく「完璧じゃない親の姿も知ってほしい」と話します。

 
望:
「子どもにとって一番身近な親が苦労する姿を見せないでいると、できない人やうまくいかない物事への想像力が働きづらいと思います」

 

▲家で仕事をしているときも、ふと気づくとそばにいる

 
望:
「その点、異国で暮らすと必然的に苦労します。
洗剤を買うにしても日本語で書いていないからいちいち調べないといけない。
身近な親が失敗したり、奮闘したりする姿から親も完璧じゃないことを知れば、他人への思いやりを持てる気がするんです」


▲食材を自ら収穫するのもニュージーランド暮らしの醍醐味

 
望さんは最近嬉しいことがあったそう。

苦手な皿洗いをぶつくさ言いながらしていたところ、長男くんが自発的に「やってあげるよ」と手伝ってくれるように!

それも完璧じゃない姿を見せていたからかもしれません。

 
望:
「わー!ありがとう!って言ってお願いしちゃってます(笑)」

 
ともに過ごす時間が長くなると、つい相手の粗ばかりが目について指摘してしまうことも。

でも一歩引いてみると、そもそも自分も相手も完璧じゃない。

良い所も悪い所もあるから愛しいし、一緒にいる理由になるのかもしれません。

完璧じゃないことを前提にすれば、相手にやさしくなれる。なんだか私まで少し肩の力が抜けた気がしました。

 

Text:Nao Tadachi
Photo:Nozomi Yuasa, Takuma Uehara, Joe
Edit:NEXTWEEKEND

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