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いろいろな家庭のだんらんのかたちを、住まいや暮らしの工夫から読み解く連載「家族がつながる、だんらんの部屋づくり」。

今回おじゃましたのは、季節感あふれる暮らしや、あたたかな食卓風景を発信しているスタイリスト、宇藤えみさんのおうち。

都心にありながら、驚くほど緑豊かな住まいで暮らす宇藤さんのだんらんの風景を覗かせていただきました。

左は柿の木、右は桜。
生い茂る樹木がやさしい影を落とすテラス。
この緑の光景を眺める特等席が、テラスに続く大きな窓のそばのダイニングテーブル。

そこに自然の恵みたっぷりの料理を並べたら、家族みんなが集まってきます。

「はい、ごはんの前の『いただきます』は?」宇藤さんが呼びかけると、「いただきます!!!」息子さんの元気な声が響きます。

「昨日はどんなことして遊んだの?」「えーっとね…」
父と子の会話をにこにこと見守る宇藤さん。

窓からは、夏の日差しがあふれんばかりに降り注ぎます。


▲息子さんは現在、おはしの使い方を練習中。マナーだけでなく、食べ物に感謝していただくこと、食を楽しむこと…etc. だんらんの時間を通して、たくさんのことが息子さんに受け継がれていきます。


▲この日の主役は、農家さんから届いたとうもろこしを炊き込んだ土鍋ごはん。旬のものをいただくのは、自然を暮らしに取り入れる方法のひとつ。

 

ごはんを家族で楽しむための、ひと工夫

都心にほど近い住宅街ながら、まるで避暑地の山荘のような2LDKの一軒家に、旦那さんと4歳の息子さんと住む宇藤さん。

窓から見える風景を眺めながら、家族揃ってごはんを食べるひとときが、宇藤さんにとって大切なだんらん時間となっています。

 
「普段、夫の帰宅時間が遅めで、週末や朝ごはんの時間が、息子が夫と話す貴重な機会なんです。
最近、息子が私に話すことと夫に話すことが違っていたりするんですよね。
でも、そんなふうに私とだけでなく夫との関係も築くことが、息子の成長にとっても大事なことかな、と思って」


▲フードスタイリストとしても活躍する宇藤さん。レシピ開発を行ったり、食にまつわるイベントを開催することも。

 
宇藤さんのInstagramで特に人気なのが、朝ごはんの投稿。
季節の野菜やほっとするようなおかずが並ぶ食卓は、見ているだけでも元気がわいてきます。

 
「スタイリストという職業柄、ちょっと華やかなごはんを意識していたときもあったんですが、だんだん考えるだけで疲れてしまって。
それよりは朝起きたときに自分が食べたいものや、親子の体調に合わせたごはんにしたほうがいいなって切り替えたんです」

 
宇藤さんが朝よく作るのが、和食ベースの「一碗ごはん」。
お茶碗によそったごはんの上に、焼き魚や野菜のおかずなどを盛ったもので、汁物を添えれば十分なボリュームに。


▲「自分が食べたいものを盛っているだけ」という宇藤さんですが、おかずがもりもりのった「一碗ごはん」は見るからにおいしそう!洗い物が少なくてすむのもうれしいポイント。

 

お腹も心も満たされそうな宇藤さんの朝ごはんですが、作るのにかける時間は、15分程度だそう。

何かと慌ただしい朝。
みんなで食卓を囲む時間を楽しみたいからこそ、手間暇をかけすぎないことが大切だといいます。

 
「塩でもむ、梅干しと合える、しらす干しと合える。そんなシンプルな料理が多いです。
保育園では栄養バランスを考えたお昼ごはんを出してもらえますし、朝からがんばらなくてもいいかな、と思うようになりました」

 

明日の朝に余裕が生まれる、小さな工夫

1.夜にだしを仕込んでおく
子どもの味覚を育てるためにも味付けのベースにしたいのが、だし。
とはいえ忙しいとだしを取る余裕もないもの。
そこで宇藤さんが提案するのが「水だし」です。
「寝る前に水に煮干しや鰹節を入れておくだけ。翌日だしができていて、すぐにお味噌汁が作れます。あとはおむすびだけでも十分!」

2.質の高い調味料を選ぶ
料理が苦手な人ほど、調味料にこだわるのがおすすめ、と言う宇藤さん。
「調味料自体がおいしければ、シンプルな料理でも味がしっかり決まるから、手をかけずにすみます。ちょっとしたことですが、これも時短につながるはず」


▲宇藤さんの味付けに欠かせない調味料。しょうゆは「古式じょうゆ」(井上醤油店)、料理酒は「旬味」(仁井田本家)、みりんは「純米本味醂 福みりん」(福光屋)を愛用。だしを取る乾物は「瀬戸内海産 いりこ(大羽)」(やまくに)、「ジュラシック節」「クラシック節」(金七商店)がお気に入り。
「金七商店さんのかつお節は昔ながらの製法で作られたもの。旨味たっぷりで安心していただけるから、お味噌汁のだしを取った後も取り出さず、一緒に食べています」

3.ときにはごはん作りを休む!
ごはん作りのモチベーションを保つために大切なのは、無理しすぎないこと。
宇藤さんは週末の朝ごはんは作らず、近所でおいしいパンを買ってすますことも多いそう。
「夫にコーヒーをいれてもらって、私は何もしない(笑)。常に家事に追われていると、イライラして家族まで巻き込んでしまうから、週末はのんびりすることにしています」

 

「食べること」がかけがえのない経験に

宇藤さんが心がけているのが、親子で“同じもの”を食べるということ。

 
「子どもだけ別の食事を用意するのではなく、親子で同じごはんを食べているという感覚を持てるといいな、と思っているんです。
大人向けの味つけを楽しみたいときは、私と夫の分だけ調味料を足して調整しています」

 
器を選ぶときも同じく、親子で一緒のものをセレクト。

 
「割れるのが怖いから、子どもはプラスチックの器で、という気持ちもよくわかるんですが、息子には私や夫と同じ陶器などの器を使わせています。
実際、何度も割れましたけど、私が『あ〜っ』という顔になるので(笑)、息子も器を大切に扱わなくちゃいけないんだな、と学んでいるようです」


▲夏の食卓は涼しげなガラスの器をメインに。ガラスに差し込む光とテーブルに映し出される影もまた、家族で共有する光景。

 

子どもの感性をおうちに散りばめて

宇藤さんの家のあちこちにさりげなく飾られているのが、息子さんによって描かれた絵。

自由でのびやかなタッチやカラフルな色彩が、家全体に生き生きとした印象をもたらしています。


▲ダイニングテーブルの後ろの棚には、息子さんの作品がいっぱい。下段の抽象画のような作品は、彼が3歳の時に描いたもの。お友達のイラストレーターが描いた息子さんの似顔絵や季節の花など、好きなものを思いのままに飾るこのコーナーは、宇藤さんにとって大切な場所。

 
「息子は早生まれで、最初は絵を描くことに苦手意識があったんですが、だんだん好きになってたくさん描くようになったんです。
それを部屋に飾ったらとっても喜んで、夫にも『こんな絵を描いたんだ』って報告するきっかけになっているようです」

 
家に飾られているということが息子さんの誇りとなり、さらに絵が好きになる。
そんな素敵な循環が生まれているようです。

 
「大人っぽいシンプルなインテリアも素敵ですけど、今は子どものアート感覚を大事にしたいな、と思っています」と宇藤さん。


▲キッチンにも、息子さんの絵が。右下のピンクの紙に描かれた絵は、息子さん作の「守り神」。宇藤さんが料理をするときに火事を防ぐ神様なのだそう。

 

食べるときも遊ぶときも一緒の空間で

宇藤さんのだんらんの時間に欠かせないダイニングテーブルですが、もともとはテラスのそばにはなかったのだそう。

 
「引っ越し当初は食事を出しやすいようにキッチンの近くに置いていたんです。
でも、窓の近くに移動してみたら、こっちのほうが家族でテラスや庭の風景を楽しめるな、と気づいて」


▲ヴィンテージのような趣のダイニングテーブルは、10年以上前に「ACTUS」で見つけたもの。展示品で少し使い込まれた状態だったのに惹かれて購入。「新品のものより、味のあるものが好き。息子に落書きされたりして傷も増えていますが、それも味かな、と思うことにしています(笑)」

 
ダイニングテーブルを移動させたことで、キッチンとの間にできた空間は、息子さんの格好の遊び場になっています。

 
「2階の部屋にもおもちゃは置いてあるんですが、リビングと遊び場が別だと、大人が呼ばれることも多くて。
それよりはリビングで一緒に過ごすほうが、結局、親にとってもラクなんです」


▲ダイニングテーブルの後ろには、息子さんの宝物が詰まった収納スペースが。ここから図鑑やおもちゃを出して、リビングの床に広げて遊ぶのが彼の日課。

 
私も息子も、寝る時以外はほとんどリビングにいるかも、と笑う宇藤さん。

 
「やっぱりここが一番居心地がいいんですよね。
もともと私の実家は親戚も含めて、大人数で過ごすのが日常だったんです。
大人がガヤガヤ盛り上がっている横で寝たりしていましたね。
そんな原体験が、みんなで集うリビングの空間を大事にしたいという思いにつながっているのかもしれません」

 

自然に囲まれた住まい求めて

自然豊かな地方で生まれ育ってきた宇藤さん。
息子さんにも自然とふれあいながら育ってほしいと考えてきました。

一方、旦那さんは便利な都心のマンション住まいを希望。
それなら自分たちの家を構える前に、両方を体験してみようということに。

マンション生活を経てたどり着いたのが、いま住む賃貸の一軒家でした。


▲窓一面に緑が広がるリビングからの眺め。この一帯を大家さんの一族が管理しているため、宇藤さんの家だけでなく周囲にも自然が残っており、都心とは思えない静けさ。

 
家の近くに大きな森のある公園があるのも、決め手に。

家から公園までのお散歩コースは、息子さんのお気に入り。
夏は虫をつかまえたり、秋は落ち葉を拾ったり。息子さんは毎日自然遊びに夢中だそう。

 
「去年の夏は、テラスでセミが脱皮する様子が見られたんですよ。
そういう自然の神秘を息子に見せられてよかったな、と思っています」


▲テラスにはぶどう棚も!家と外をつなぐテラスは、自然を感じる場であり、息子さんの遊び場であり、だんらんの場でもある大切なスペース。春はお花見やバーベキュー、夏は水遊び、秋は紅葉鑑賞。季節ごとに違う楽しみ方ができるのも魅力。

 
自然が身近にある暮らしは、宇藤さんにも大きなものをもたらしてくれました。

 
「閉塞感のある住まいだと、親もどこかでストレスを感じて、家族に当たってしまうこともあると思うんです。
やっぱり自然に触れて心を落ち着かせることって必要なこと。
自分にとって心地いい環境が、家族にとってもいい環境なのかな、というのはここに住んでみて実感したことでした」

 

部屋の中にも自然を取り入れて

家族と一緒に自然の豊かさを感じながら暮らしたい。宇藤さんのその思いは部屋のあちこちに息づいています。

リビングの家具は、ダイニングテーブルとシンプルなソファ、1人がけの椅子、ベンチくらい。

賃貸の物件で造り付けの収納が充実していることもあり、家具は前の住まいからほとんど買い足してないのだそう。

だからこそ、窓から見える風景が、ひときわ印象に残ります。


▲2階にある寝室も木漏れ日が差し込む窓を主役にして、家具は最小限に。寝心地がよさそうな大きなベッドは、前の家から使っている「ニトリ」のもの。「毎朝、陽の光で目覚めるんです。窓の外の桜の木は、春には見事な満開の姿を見せてくれます」

 
ファッションの仕事でトレンドをすごく意識していた頃は、パリ風のインテリアにしていたこともあったという宇藤さん。

 
「でも私のベースはやっぱり『和』だったみたいで、だんだん自然な風合いのもののほうが落ち着くようになりました。
お花も以前は薔薇を10本買ってばーんと活けたりしていたけれど、今は野の花をさりげなく組み合わせるのがしっくりきます」


▲庭からとってきた枝をドライにして花瓶に。買ってきたお花を飾るだけでなく、身近な自然もミックスさせるのが宇藤さん流。息子さんがお散歩中に摘んだ草花を活けたり、押し花にして飾ることも。


▲「自然といっても、ほっこりした雰囲気にするよりは、少し洗練された要素も取り入れたくて」と宇藤さん。北欧のヴィンテージのクッションは、落ち着いた色合いの中にも、どこかモダンな印象が感じられるところがお気に入り。

 

たまに行く旅行よりも、日々のだんらん

この家に引っ越してきたのは約2年前。
ほどなくして起きた新型コロナウイルスの感染拡大で、宇藤さんの生活も大きく変わりました。

それが家族のだんらんについて見直すきっかけにもなったそうです。

 
「夫は仕事が忙しく、当時は朝ごはんも食べなくて。
息子が生まれてから一緒に過ごす時間がほとんどなかったんです。
コロナによって夫が家にいる時間が増えて、息子がちょっと赤ちゃん返りしたこともあったんですが、そのおかげで2人の距離が縮まったのかな、と感じます」


▲「この前、息子が話しているときに夫が仕事していたら『ちゃんと目を見て聞いて!』って訴えていて。それって私がよく言っている言葉なんですが(笑)、息子が言いたいことを言える関係になってよかったな、と思いましたね」

 
一番うれしいのは、旦那さんに息子さんの成長を見てもらえることだと、宇藤さんは言います。

 
「子どもって日々、変化しているんです。たまに旅行に行くのもいいですけど、まだ息子が小さい時期だからこそ、朝ごはんの短い時間でもいいから、毎日会話することが大事なのかな、と思いますね」

 
さらに家で過ごす時間が増えたことで、旦那さんの心境にも変化が訪れたそう。

 
「もともとマンション派だった夫ですが、この家で暮らしたことで、自然のある暮らしや、一軒家の住まいがいいな、と感じるようになったようで。
何より息子がのびのびと自然を楽しんでいるのが響いたみたいです。
次はもっと自然と近い環境に住むことも考えています」

家族で一緒に食べるごはんを楽しむこと。
買ってきた花だけでなく、摘んできた花も生けること。
お母さん自身が住まいや暮らしを愛おしむこと。

宇藤さんが生活の中で大切にしていることや、部屋を形作るものひとつひとつに、息子さんにつないでいきたいこと、そして伝えたいメッセージがあふれていました。

コロナ禍で行動に制限を感じることも多い日々ですが、家族やおうち、暮らしに気持ちを向ける機会にもなるということを、宇藤さんやご家族の和やかな笑顔から感じました。

暮らしの真ん中に置きたいことってなんだろう?
家族が自分たちらしくいられるのはどんな場所?

「だんらん」から、みなさんの住まいや暮らしを考えてみませんか?

 

おまけ:セレクトショップから学ぶ、自然と洗練のバランス

シンプルなインテリアは、無難にまとめるとどこか物足りない印象に。
宇藤さんに、自然×洗練のミックススタイルが魅力のショップを教えていただきました。

CASICA
新木場にある、ギャラリーやカフェ、ショップなどが入った複合施設。
アンティーク家具からモダンプロダクトまで。
時代や場所を超えた品々が交差する空間を味わって。

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松陰神社前の商店街にある、小さなセレクトショップ。
オーナーが国内外から集めた器や暮らしの道具は独自のセンスが光ります。
ハンドドリップのコーヒーも楽しめます。

BLOOM & BRANCH AOYAMA
青山・骨董通り沿いのセレクトショップ。
ファッション以外に生活雑貨も充実しており、土のぬくもりを感じさせる器が見つかります。
作家物の器でコーヒーを提供する喫茶も併設。

 

 

文章:野田りえ

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