パートナーとして生きるふたりの夫婦観を、3つのルールをもとに深堀りする連載「ふたりのこと」。
今回登場するのは、シンガポールをはじめ東南アジアの国で集めたライフスタイル雑貨を展開する「MEKEARISA(メケアリサ)」オーナーの松尾愛理紗さんと共同経営者のブライアンさんです。
胸がきゅんとなる絶妙なカラーリングに、どこかあたたかみを感じさせる素朴な雰囲気。
MEKEARISAの世界観は支持を集め、代表アイテムの「メケアリバッグ」はおしゃれに敏感な人たちの間で大ブーム!
大阪・枚方にあるショップやカフェ、日本各地で開催されるPOP UPストアに多くの人が訪れています。
このMEKEARISAの物語は、海外で働く夢を叶えるために愛理紗さんがシンガポールへ旅立ったことから始まりました。
そして、そんな愛理紗さんの側にいつもいたのが、ブライアンさんでした。
ふたりの出会いから、家族になって同じ夢を追いかけるまでのストーリー、そして“全部が真逆”のふたりが心がけていることをお聞きしました。
シンガポール移住を機に結ばれた、
運命のパートナー
▲MEKEARISA 2号店の「YORKIE COFFEE(ヨーキーコーヒー)」。大きな窓のある開放的な空間に、カラフルなインテリア。どこを切り取っても絵になるかわいいカフェ。
愛理紗さんとブライアンさんの出会いは、2016年の夏。
当時愛理紗さんが働いていたデザイン事務所のシンガポール支社から研修に来ていたのがブライアンさんでした。
といっても仕事上の関わりはなく、交流もほとんどなかったとか。
愛理紗:
「“シャイなシンガポールの男の子”という印象で、同僚という感覚すらなかったかも」
ブライアン:
「エレベーターで彼女と乗り合わせたことがあったんですが、お互いに角と角に離れて立って何の会話もなく……冷たいなって思ってました(笑)」
半年後、研修を終えてシンガポールへ帰国することになったブライアンさんを囲んで、同僚同士でランチに行くことになり、たまたま愛理紗さんが隣の席に。
かねてより海外で働きたいという夢を持っていた愛理紗さんは、当時シンガポールで就職活動をしており、現地で会おうという話に発展。
以来、ふたりの交流が始まりました。
愛理紗:
「2017年の1月にシンガポールの広告会社から内定が出たんですが、就労ビザが取れるまで3か月もかかって。その間、ブライアンはスカイプで励ましてくれて、シンガポールでの家探しや携帯の契約などの相談にも乗ってくれたんです」
ブライアン:
「その頃には、シンガポールで彼女がストレスなく暮らせるように、支えてあげたいと思っていました」
そしてようやく愛理紗さんがシンガポールにやって来た日。
早朝着の便だったにもかかわらず、空港には迎えに来たブライアンさんの姿がありました。
愛理紗:
「彼はやさしいから相談に乗ってくれるのかな?と思っていたんですが、彼の中で私への好きという気持ちが芽生えていたことがわかって…」
なんと、愛理紗さんの到着翌日からおつきあいがスタート!
愛理紗:
「お互いの職場が徒歩10分くらいの距離だったんです。仕事終わりに彼が私のオフィス前の公園で待っていたりして、週に5〜6回は会っていたかも。休日もずっと一緒で、時には近くの国に旅行に行ったりしていました」
恋人から家族、
そしてビジネスパートナーに
▲ショップもカフェも木金が定休日なので、土曜日からが新しい1週間の始まり。土曜日の営業時間前にショップとカフェを回ってお花を生け、コーヒーを飲んで休憩するのがお気に入りの流れ。
ブライアンさんとのおつきあいは、愛理紗さんに新しい道をひらくきっかけをもたらしてくれました。
愛理紗:
「私はシンガポールで働くのは3年だけと決めていて、その間にガイドブックに載っていないようなことを発掘しないと、いる意味がないと思っていました。幸い、彼のおかげでローカルカルチャーに触れる機会が増えたし、日本人が行かないような場所を訪れることができて。そんな中で、日本人も好きそうな、かわいい雑貨とかを見つけられるようになったんです」
そうやって発掘したものを、日本に一時帰国する際にPOP UPストアを開いて売るようになった愛理紗さん。
そこからふたりの未来が動き出します。
愛理紗:
「私は現地採用で、日本に戻る交通費を出してもらえるわけではなかったので、飛行機代の足しにするくらいの気持ちだったんです(笑)。でも、お客さんの反響に手応えを感じて、今後のことを考えるようになりました」
ブライアン:
「僕のほうも、彼女の仕事の準備を一緒にするうちに、結婚を意識するようになって」
愛理紗:
「2019年の8月に彼からプロポーズを受けました」
ブライアン:
「実はその半年くらい前に、婚約指輪を買いに行っていたんです」
愛理紗:
「ブライアンは、私が寝ている間に指に糸を巻き付けてサイズを測っていたらしいです(笑)」
プロポーズを受けた愛理紗さんは、将来を真剣に考え始めます。
愛理紗:
「自分のブランドを立ち上げようと決心したんです。日本とシンガポール、どちらをベースにするか悩みましたが、これからビジネスを大きくしていくのであれば、人口が圧倒的に多い日本かな?って」
愛理紗さんが活動拠点として選んだのは、生まれ育った大阪の枚方。
愛理紗:
「新しいことをするのは好きなんですけど、馴染みのない場所でゼロから始めるのはシンガポールでもう十分(笑)、どこに何があるかわかっている地元が一番スムーズだと思ったんです。シンガポールで結婚登録という手続きを済ませてから私が先に日本に帰って、新生活の準備をすることにしました」
新婚まもなく遠距離結婚に!?
▲MEKEARISAのショップでお花を生けた後、ちょっと休憩しながら店内をチェックする愛理紗さん。
ところが…。
愛理紗さんが日本に戻った2020年の冬に、新型コロナウイルスの感染が急速に拡大。
外国からの入国制限が始まり、ブライアンさんが日本に来られないという、予想もしなかった事態になりました。
愛理紗:
「POP UPストアと並行してショップの開店準備も進めていたので、毎日ブライアンとビデオ通話をしながら、『ここの物件に決めたよ』とか、細かく伝えていました。でも、結婚したのに実感もわかないままで。コロナはいつ収束するんだろう、まだかな…という日々が、なんと1年以上も続いたんです」
ブライアン:
「その頃は日本大使館のサイトで毎日コロナ情報をチェックしていました。先の見通しが全然つかなかったし、何より彼女を助けたいのに助けられないのがストレスでした」
愛理紗:
「初めてのお店づくりでわからないことだらけ。イライラするんですけど、矛先をどこに向けていいのかわからない。その積み重ねで何回もバンって感情があふれそうになりました。普段私たちはほとんどケンカしないんですけど、この時期は私がムスッとなってしまうこともけっこうありました」
そんな苦労も重ねつつ、2021年の4月に待望のショップがオープン。
そしてやっとブライアンさんも日本に来られることになりました。
愛理紗:
「彼が合流したときはすでにお店ができていて、知らない間にスタッフが増えていたりして、浦島太郎みたいな状態だったんじゃないかな」
ブライアン:
「でも、開店自体は本当にうれしいことだったし、日本語は難しいけどスタッフのみなさんはやさしくて、そこまで距離は感じなかったです」
結婚生活がスタート。
“95%一緒”の毎日に
▲ふたりが梅田に行った際によく立ち寄る「ALL DAY COFFEE」。カフェの勉強のためにいろんなお店に足を運びたいと思いつつも、アクセスが良いこともあって、結局ここに戻ってきてしまうそう。
晴れて始まったふたりの新生活。
MEKEARISAの運営も愛理紗さんとブライアンさんで分担するようになりました。
愛理紗:
「お店のコンセプト決めや総務・経理業務、スタッフとのコミュニケーションなどは私がやっていて、彼にはインドネシアの商品仕入先とのやりとりや輸入に関する業務を一任しています。お互いに得意なことと、できるスキルに合わせて業務を分担している感じですね」
最初は愛理紗さんが仕入先と交渉していましたが、日本とインドネシアでは、色の感覚から働き方までまったく違っていて、品質のよいものを仕上げてもらうのに苦戦していたそう。
愛理紗:
「よいものをどれだけ安く提供できるか追求する日本と、生きているだけのお金を稼げれば十分と考えるインドネシア。価値観自体が全然違うので、私じゃ無理だなって」
ブライアン:
「僕の兄弟がインドネシアで働いていたことがあって、奥さんもインドネシア人。現地の人とのローカルなコネクションがあったんです」
愛理紗:
「どういうふうに話せば伝わるかとか、どうしたらモチベーションを上げられるかといった部分を教わりながら、彼にやりとりしてもらっています」
今は同じ場所で働き、暮らすふたり。
「私が個人的に受けた仕事をしているときと、ブライアンがパーソナルジムに行っているとき以外は、ずっとふたりでいますね。95%一緒なんじゃないかな」と笑う愛理紗さん。
愛理紗:
「家事も分担はしているんですけど、共同作業みたいにやっていますね。たとえば洗濯が終わったら私は小物類を干して、彼は大きなシーツやハンガーにかけたものを干すとか」
▲植物に水をあげるときもチームプレーで。ひとりが水をくんでバケツリレー方式で渡していけば、大変な水やりも楽しい作業に。
そんなふうにするようになったのは、遠距離結婚中に感じたことが理由だそう。
愛理紗:
「彼にも仕事の進捗は共有していましたが、やっぱり同じ場で体験したことと聞いただけのことでは、気持ちの入り方が大きく違ってくるんですよね。ふたりで洗濯物を干していたら、ひこうき雲が立つ瞬間を一緒に見られる、なんてこともあるかもしれない。うれしいことや素敵な瞬間をともに見られるのは、実は大きなことなんじゃないかな、って思うんです」
何事も“一緒に”行う。
それは体験や気持ちを共有して絆を深めるための、ふたりの秘訣なのかもしれません。
すべてをオープンにすることで、
余計な心配をかけない
▲YORKIE COFFEEの飾り棚。1番上にはお花とYORKIE限定のバッグが、2段目にはシンガポールで買ったタオルと、KOPI(シンガポールのコーヒー)の抽出器具がオブジェとして飾られています。
もうひとつ、ルールとして意識しているのが「隠し事をしないこと」。
愛理紗:
「私は感情が顔にすぐ出てしまうんです。そこで何も言わないと、彼が自分に対して不満があるのかとか、私と実家の間に問題があったのかとか、想像をふくらませて心配しちゃうみたいで。それならちゃんと話すほうがいいなって。ブライアンは私に隠してることはある?」
ブライアン:
「全然ない(笑)」
愛理紗:
「彼は内に秘めがちなので、時々聞き出すようにはしていますけどね」
ブライアン:
「たしかに感情を抑えてしまうところはあると思うけど、隠していることはないよ」
愛理紗:
「何も隠せないからサプライズもできないんですよ(笑)」
ふたりの仲の良い姿を、
大切な家族にも見てもらう
▲YORKIE COFFEEに設置した三角形のヴィンテージのミラー。本来は頂点を上にして使うものだけれど、逆さのほうが気に入ったのであえてこの形で使用。スタッフが来る前にお店に行って、ああ、やっぱりYORKIEもかわいいね、とふたりでしみじみする。そんな時間が好きなのだそう。
ブランドの立ち上げから走り続けているふたりにとって大切なのが、近所にある愛理紗さんの実家で過ごす時間。
週1ペースで訪れていると言います。
愛理紗:
「実家にいる2匹の愛犬と遊んでエネルギーを充電したり、母の料理からごはんづくりのヒントをもらったり、実家に帰ると何かしら得るものがあって、私たちふたりのパワースポットになっているんです」
ブライアン:
「僕も犬たちに会えるのがうれしいし、愛理紗さんのお母さんのごはんはすごくおいしい!とっても元気になれる場所ですね」
愛理紗さんだけでなく、ブライアンさんも一緒に実家に行くことには、もうひとつの意味も。
愛理紗:
「彼と交際していた頃は、母に結婚を反対されていたんです。国際結婚に苦労はつきものだけれど、覚悟はあるのかって。結局、日本に住むことになって、そこまで大変ではないだろうと思ったのかOKしてくれましたが。それが今では、ふたりで来てくれると安心するとまで言ってくれるようになって。だからしょっちゅう実家に行って、私たちの仲の良い姿を見てもらっています」
国の違いも不安も、
意志とコミュニケーションで乗り越える
▲いつも愛理紗さんをさりげなくサポートするブライアンさん。「彼は物音を立てないんですよ。すごく静かで、くしゃみすら全然音がしない。空気みたいな存在です」と愛理紗さん。
文化の違いや言葉の壁。
国際結婚が珍しいことではなくなった現在でも、大変そうというイメージは根強くあります。
でも、愛理紗とブライアンさんが笑いながら話している様子はあまりにも自然で、ふたりでいることが本当に心地よいのだと感じます。
愛理紗:
「結婚前のほうが不安になりがちだったし、行政手続きとか、乗り越えなくてはいけない壁も多かったかな、と思います。でも、彼が日本に来てくれたこともあって生活の不自由は一切ないんですよね。彼とは英語で会話しているので意思疎通が難しいときもありますけど、そこまで不便は感じてないかも」
一方、日本に住むという大きな決断をしたブライアンさんも、こう語ります。
ブライアン:
「病院や保険とか、これから生活はどうなるんだろうって、日本に向かう飛行機に乗る前に一瞬不安になりました。でも、まだ実際に起きていない問題で悩むのもナンセンスだな、と思ったんです。自分がやりたいと思ったことだから、進むしかない。僕の兄弟もシンガポールから出て他国で生活しているので、自分にだってできないわけはない、と言い聞かせました」
「今、日本での生活はとっても順調」と話すブライアンさんの横で、うれしそうに笑う愛理紗さん。
愛理紗:
「ブライアンは何でもやってくれるから、私はすごく楽なんです。コーヒー入れてくれたり、掃除してくれたり」
なんてうらやましい!それがシンガポール流なのかと思いきや…。
愛理紗:
「いえ、日本に来た当初は何もしなかったから、彼を泣かすくらい、めちゃくちゃ怒ったんです。そこから家事もやってくれるようになりました。最初が肝心ですね(笑)」
察してくれるのを待つのではなく、自分の思っていることを伝える。
それは国際結婚にかぎらず、円満な共同生活のためのコツのようです。
カフェ、宿泊施設…etc.
国を超えて広がる夢
▲今は家とオフィス、ショップとの往復で「休日も平日もない」というふたり。買い出しなどの合間にひと休みするのが、貴重なひととき。
2022年5月、愛理紗さんとブライアンさんはショップと同じ枚方にYORKIE COFFEEをオープンしました。
愛理紗:
「MEKEARISAがある枚方は、大阪と京都の間にあるベッドタウン。大阪の中心地から少し距離もあるので、わざわざ来てくれるお客さんに楽しんでもらえるようなカフェをつくりたかったんです」
店の内装はもちろん、メニューにも愛理紗さんたちのこだわりが詰まったYORKIE COFFEEは、たちまち枚方の人気スポットに。
愛理紗さんはこれからも地元を盛り上げていきたいと語ります。
愛理紗:
「まだ物件探しもできていないんですが、いつか枚方で宿泊施設もつくりたいんです。それがうまくいったら、次は海外でも宿泊施設をオープンするとか、そういう展開ができたらおもしろくなりそうだなって」
決断の早い愛理紗さんとは反対に、石橋を叩いて渡るタイプのブライアンさん。
YORKIE COFFEEの物件も「そんなに早く決めていいの?」と驚いていたそう。
「私たちは性格が真逆なんです。足して2で割るとちょうどいい。それでも反対せずについてきてくれるのがありがたいです」と愛理紗さん。
愛理紗:
「彼は私が常にやりたいように、ストレスなく過ごすことを最優先の目標として生きているって、言ってくれるんです。私はそこまで彼を思いやってあげられるだろうかと、考えさせられることはけっこうあります」
ブライアン:
「彼女のやりたいことに対して情熱的なところが好きなんです。会社を引っ張るリーダー性もあるし、しかも料理がすごくうまい(笑)。愛理紗さんが僕の妻であることを、友達や家族に自慢したいくらい立派な人です」
ブライアン:
「僕たちは一緒にビジネスもしているので、会社としても成長していける。それは自分だけではできなかったことだから、結婚してよかったです」
愛理紗:
「私にとっては、何でも話せる相手ができたことが大きくて。友人や両親、スタッフに言えないようなこともあるんですが、そういうのも全部受け止めてくれる彼がいると、すごく安心する。独身時代、先が見えなくて荒ぶっていた頃のメンタルと比べると、今はずいぶんおだやかになりました」
結婚したことで、大きな仕事にチャレンジするパワーを得たブライアンさんと、不安が軽くなった愛理紗さん。
ふたりを見ていると「喜びは2倍に、悲しみは半分に」という言葉はまさに真理だなと思います。
国際結婚にかぎらず、違う人同士がともに暮せばギャップは生じるもの。
「なんでわかってくれないの?」という声なき声は、各家庭から聞こえてきます。
でも、そのギャップを前提として気持ちを伝え合い、理解し合い、日々目線を合わせていたなら。
その違いは最大の強みとなるのかもしれません。
シンガポールから枚方、そして世界へ。
お互いの得意分野を生かしながら国境を超えて大きな夢を育てているふたりの姿から、そんなことを感じました。
Text:野田りえ
Photo:松尾愛理紗、ブライアン
Edit:NEXTWEEKEND