栃木県とNEXTWEEKENDのコラボレーション「理想の暮らしから考える、自分らしい地方移住」では、これまでオンライントークショーやワークショップなどで、理想の生活の見つけ方や栃木の魅力を伝えてきました。
今回の記事は、実際に、県外から栃木へと移住された方々に、その選択をした経緯や地方での暮らしについて、お話を聞いていくシリーズ連載(全三回)の第一回目です。
今回お話を伺ったのは、那須高原の入り口・黒磯駅前にあるベーカリー「KANEL BREAD(カネルブレッド)」のオーナー、岡崎哲也さん。
店舗がある黒磯駅から車で約10分。
取材スタッフが向かったのは、広大な自然に囲まれた、家族3人で暮らしている自宅。
落ち着いた墨色の平屋の建物が、那須の自然に溶け込んでいます。
▲緑が色づき始めた黒磯の秋。自宅で出迎えてくれた岡崎さん夫婦。
食を通して、黒磯の街全体を豊かにしたい
神奈川県出身の岡崎さんが、黒磯に移り住んで10年。
黒磯に本店のあるカフェに3年という期限を決めて勤めたことが、黒磯ライフのはじまり。
岡崎さん:
「カフェに勤めている間に妻と出会い、その後の計画では、神奈川に戻ろうと思っていたんです。
ただ、仕事を考える前に“暮らし”を優先して考えた時に、ここの土地が自分たちに一番しっくりきた。
物件のめぐり合わせがあり、東京で経験をしていたことがあるワインバーを始めたんです。
そうしたら、店に出すための、自分好みのパンが近くで手に入らなくて。
“おいしいパン屋さんがあったら…”と思って、二年目にはパン屋を始めていました」
オープンしてまもなく、地元産をはじめとする素材にこだわったパンは話題となり、地元の人はもちろん、県外からわざわざ訪れるほどの人気店に。
▲2012年にオープンした「KANEL BREAD」は、今や黒磯のシンボル的存在。
最初は店を軌道に乗せることに必死だった、という岡崎さんだが、「暮らしに根付きたい、という考えを常に持っていました。(ワインバーよりも)パン屋は多くの人に開かれていて発信しやすい。あと、一人で仕事をするのではなく、仲間やスタッフとヴィジョンを共有したいという意識もありました」と話します。
2016年には併設のカフェができ、「KANEL BREAD」のスタッフは現在約20人。
今では、お店の営業にとどまらず、黒磯の街全体を盛り上げようと、同じ想いを持つ同世代の店主たちとともに、マルシェやイベントなど新たな試みをどんどん形にしていき、今では黒磯のキーパーソンのひとりとして知られる岡崎さん。
岡崎さん:
「地域の仲間が増えれば増えるほど、実現できることが多くなり、黒磯の街のためにやりたいことも増えていきました」
▲目移りするほど美味しそうなパンが勢ぞろい。夕方前には完売するほどの人気。
岡崎さん:
「古くからある風土や考え方に歩み寄りながら、少しづつ理解を得てきました。
それはどこの場所でもにいても必要なこと。
一緒に乗り越えられる仲間もいて、一つ一つクリアして信用を得ることで、応援してくださる方が増えていきましたね」
新しく開発された黒磯駅前広場にて、週末に行われている「日用市」も、岡崎さんが中心となって進めているプロジェクトのひとつ。
地元で採れる旬食材、生活にまつわるモノ・コトなどを通して、多くの人の交流の場になっています。
岡崎さん:
「生産者さんと消費者さん、地域に暮らす人と訪れる人、というようにそこに行けば誰かと交流が生まれる、そんな場所を目指しています。
スピンオフイベント『黒磯日用夜市』では約7000人が訪れるほどの規模にまでなりました」
▲“心地よい暮らしについて考え、実践するきっかけになること”を目的にスタートした日用市。
競合するはずの飲食店も、競うのではなく地域を盛り上げるために手と手を取り合っているのが、黒磯を魅力的にしている大きな要素のひとつ。
岡崎さん:
「もう長いこと暮らしているので自分たちにとっては日常ですが、外から見ると、黒磯は特別な街に見えるそうです。
それは、先に事業を始めていた、僕たちの上の世代の方々が作ってきたものも大きいですよね。
彼らが作ってきた歴史や、次世代がつくるものを面白がってくれる寛容さ。
そういった素地は、自分たちも受け継いでいきたいところですね」
「(栃木の)県北は、なんだか人がいいんですよねぇ。おおらかでのんびりしている気質というか」と岡崎さん。
「夫も、丸くなったというか、自然と県北の気質になった感じがしますね。黒磯に住み始めた頃は、夫の地元が少し荒っぽい口調に聞こえることもあり、少し尖って見られたこともあったよね」と妻・優子さんが笑う。
伝わってくるのは、この土地や住民に対するリスペクトと、この地でよりよく暮らしていくために真摯にモノゴトに向き合うことの大切さ。
表情にも佇まいにも、そのひとの生き方が表われるなら、身を置く場所は自分自身で選び取りたい、そう思わせられました。
“住む”のもう一つ先の、“豊かに暮らせる”家
神奈川県出身の岡崎さん宅のダイニングには、サーフボードが飾られていて、海のない栃木の家にもかかわらず、不思議とマッチしています。
岡崎さん:
「4年前に、同じタイミングで家を建てることを考えていた妻の姉夫婦と、土地を買って半分ずつシェア。
自分たちが心地よいと思えるような家を建てました」
ヘリンボーン張りのリビングの床、表情のあるキッチンの囲み壁、抜け感のあるダイニングの床…それぞれ種類の異なる木材を使うことで、温もりを感じる空間になっています。
「インテリアのこだわりは、ないんですけどね」という岡崎さん。
ひとつずつ揃えたという日本製のアンティーク家具が空間に馴染み、天窓から光が注がれ、冬には薪ストーブの火を眺められる。
いるほどに心地よく、長くいたくなるつくり。
岡崎さん:
「このあたりのおうちには、薪ストーブが必ずありますね。
友人が、ふらっと木を一本、置いていったりすることも。
だから、もう薪は困るくらいあるんですよ。割るのが本当にひと苦労でした(笑)」
田舎ならではのあたたかなつながりを感じられる、ほっこりするエピソードも。
ダイニングの窓から見える、自作のハーブ畑を目前にしながら、“ここで暮らしたらどんなに居心地がいいだろう”と、口を揃える取材スタッフたち。
あえて田舎で暮らすデメリットを聞いてみたところ、「うーーん?」と顔を見合わせる岡崎さん夫婦。
岡崎さん:
「正直、思いつかないですね(笑)。
自然に囲まれた暮らしが叶えられて、新幹線や飛行機(福島空港を利用)で、東京にはすぐ行ける距離。
ここを田舎とあまり感じたこともないんですよね。
都会に住んでいた頃と比べても、まったく不便を感じないんです」
そう語る岡崎さんの自宅には、所々にお子さんが描かれた絵が飾られていて、愛おしい家族の空気感に包まれています。
岡崎さん:
「今思うと、東京に住んでいた時は、常に外に意識が向いていました。
どこかに食べに行ったり、旅に出かけたり…。
居心地のいい家で地に足をつけて暮らしている今は、家の中にいても幸せを見つけられる。
家族や友人と、家で過ごす時間がなによりの幸せ。
ここに全てがあります」
ステイホームをしながら新しい日常と向き合うことになった2020年。
“心地よい生活とは” “真の豊かさとは”を考えさせられた年だったからこそ、岡崎さんの言葉にハッとさせられた瞬間でもありました。
▲「4歳の息子は庭を裸足で駆け回るので、靴がきらいになっちゃって(笑)」と優子さん。
移住先選びは、自分の幸せに向き合うことが軸になる
黒磯の“今”を作ってきた岡崎さんが考えているのは、黒磯の“これから”のこと。
岡崎さん:
「今後やりたいことの一つは、県外からここの土地へ移住したい方の“窓口”になること。
移住したい方の理由は、人それぞれだと思うんですよね。
店を開業したい、子育てのため、2拠点のための別荘を建てたいとか。
物件探しから、子どもの幼稚園のアドバイスや新店舗のデザインまで、トータルでお手伝いできるような地域貢献を絡めた事業をしたいと思っているんです。
情報を提供し、人と土地をつなぐ役を担って、誰かの手助けができたら嬉しいですね」
移住に憧れている人の中には、地元のコミュニティにうまく入りこめるかを、気にかける人も多いはず。
こうして、誰もが暮らしやすい街を実現する方法を考えている存在がいるのは、なんとも心強い。
岡崎さん:
「個人としては、近い将来、那須というロケーションを生かしたパン屋を作る予定です。
広いテラスがあって、子どもや犬が遊べて…パンを売る以外でも楽しめるような場所を作りたい。
観光地である那須と、独自の文化がある黒磯は、こんなに近いのに観光客の往来が少ないんです。
その動線になることが目標ですね」
▲この土地の「価値あるもの」を未来に残していきたい、と語る岡崎さん。
最後に、移住を考えている人へのアドバイスを聞いてみました。
岡崎さん:
「移住に少しでも興味があるとしたら、自分の生き方を見直すチャンス。
仕事や収入面は一旦置いて、どういう暮らしをしたいのか、どうあれば満たされるのか。
自分の“幸福感”を見つけられると、理想の場所がぐっと近づくと思います。
地方にも仕事はあるし、収入が下がっても東京よりお金を使わず暮らしていける。
私たちにとっては、黒磯こそが“幸福感”を叶えてくれる場所でした」
移住は、覚悟がいること。
しかし、岡崎さんは「移住前にすべて決めて万全に整えよう、と考えすぎなくてもいいのでは」といいます。
岡崎さんのように“どういう生き方をしたいか”から考え始めると、思いもよらぬ扉が開き、新しい働き方や人間関係が見つかるかもしれません。
豊かな自然に囲まれながら、適度に都会とも繋がることができる、黒磯の街。
暮らす人の声を聞き、街の空気に触れることで、年々移住者が増えているその理由を、さらに実感できた気がしました。
▲取材スタッフを歓迎してくれた岡崎さんちの愛犬・ロン。
記事【移住の本音vol.1「自分と家族の “幸福感” に向き合ったら、叶う場所がここにあった」】をご覧いただきありがとうございました。
下記のアンケートフォームよりご感想をくださった方の中から抽選で1名様に、NEXTWEEKEND編集部からのプレゼントとして、岡崎さんの経営する「KANEL BREAD」の焼きたてパン詰め合わせをお届けします。
(食パン、ハードパン、お食事パン、おやつパン、どれも本当に美味しいのです…!)
フォームは質問4つのみ。
ぜひこの機会に、ご感想を聞かせていただければ嬉しいです。
2020年 11月28日(土)〜12月13日(日)まで
当選者発表
当選枠1名、12月中旬頃を予定。
※当選者の方にのみご連絡いたします。
※お客様の個人情報は本記事企画でのプレゼント発送にのみ使用いたします。
この記事は、NEXTWEEKENDと栃木県とのコラボレーションで制作しています。
Text:Hitomi Takahashi