いろいろな家庭のだんらんのかたちを、住まいや暮らしの工夫から読み解く連載「家族がつながる、だんらんの部屋づくり」。
3回目に登場するのは、athome madeを主宰される野村美佳さん。
花にまつわるワークショップやスタイリングの仕事などを通して、自然や季節を楽しむ生活や手仕事を提案されています。
緑豊かな庭でハーブや野菜、果樹を育てながら、旦那さんと愛犬のハナちゃんとの暮らしや、近所に住む娘さん一家との交流を満喫されている美佳さん。
そのだんらんの場におじゃましました。
娘のれなさんと、8歳になる孫のダリアちゃんが遊びに来た、日曜日の午後3時。
大きな木のダイニングテーブルに、次々とごちそうが並びます。
レモンケーキにかぼちゃのパウンドケーキ。
絵本に出てきそうなまんまるのプリン。
そして、美佳さんとれなさんの大好物のチーズとワイン!
「レモンケーキだよ」と聞いて、ぴょん、と飛び跳ねたダリアちゃん。
テーブルに駆け寄り大きなチーズを見つけると、慣れた手つきで削り、お皿に並べていきます。
▲スイーツはすべて、美佳さんのお手製……!ウィンターコスモスの花がテーブルにやさしい彩りを添えています。
▲スイスのチーズ削り器「ジロール」を器用に操るダリアちゃん。ジロールは美佳さんの息子さんがスイスで買ってきてくれたもの。
いつのまにか庭に出ていた美佳さんが戻ってくると、その手にはオレガノやレモンバーベナの枝が。
ケーキにそっと添えたら、この日のテーブルが完成!
「おいしい?」「あれ、いつものケーキとちょっと違う?」
おしゃべりや笑い声が飛び交う3世代の家族の風景を、テーブルの横で寝そべるハナちゃんが見守っています。
▲豆柴のハナちゃんは16歳。うとうとしながら時折ユーモラスないびきの音を立てて、家族の笑顔を誘っています。
▲リビングにあるもうひとつの大きなテーブルでのお茶の時間。輪切りのりんごがキュートなアップルパイも美佳さんの手づくり。オールドパイレックスのティーポットは、直火にもかけられるすぐれもの。
庭には自然からのメッセージがいっぱい
鎌倉の静かな住宅街にある、ガルバリウム鋼板壁がモダンな印象の一軒家。
扉を開けると開放感のあるリビングが広がり、大きな窓からは、木々や草花が生い茂る、小さな森のような庭が見えます。
▲芝生にはチェックのクロスがかかったテーブルとベンチ。昔、憧れた物語に出てくる庭のよう。手前のレモンの実は収穫して、レモンケーキの材料に。
「果物は、プラムにブルーベリーにブラックベリー、ラズベリー、ひめりんご、びわ。さくらんぼも無理を言って植えてもらいました。野菜は白菜、オクラ、にんじん……山椒にゆず、えごまやハーブ。食べ物ばっかりでしょう?」と笑う美佳さん。
お花の仕事に携わってきた美佳さんにとって、庭のある暮らしは念願だったと言いますが、鑑賞するだけでなく「使える」ということを重視したそう。
「生活に取り込めるお庭というのが理想で、ダリアにそれを見せたかったんです。もともとダリアは道端の葉っぱや石ころを拾ったり、自然で遊ぶのが大好き。この家ができてから、ずっと庭を走り回っていますね」
▲ノンアルコールモヒートづくりのお手伝いをしているダリアちゃん。「最近ダリアは私の真似をして、『ちょっとミントとってこよう』なんて庭で摘んできて、食卓に添えたりしているんです。私のやっていることを見ているんだなってびっくりしました」と美佳さん。
自然がダリアちゃんに教えてくれることも、たくさんあります。
「『あそこで虫さんが、全部俺たちのものだ、うっしっしーって葉っぱ食べてるよ!』なんてダリアが言ってきたり。もう、害になる虫とそうでない虫がいるということも理解しているみたいですね。そういったことも、植物と共生するうえで大事な知識なのかな、と思うんです」
▲四季折々の味覚を楽しめる庭は、食いしん坊揃いの家族の心をつなぐ存在に。「収穫ってそれ自体がわくわくすることだと思うんですよね。『オクラがもう大きくなっていたよ』とか『今年はきゅうりが育ちすぎてね』なんてふうに会話のきっかけにもなっているんです」と、美佳さん。
ごはんの後のお楽しみはおうちシアター
おやつやごはんでお腹を満たした後は、リビングの壁に映画を映し出し、家族で観るのが定番。
れなさんが「この映画、ママも好きかも」と提案することもあれば、邦画好きの旦那さんが薦めた映画を観ることも。
たいてい先に言った人の映画を上映するから、その日に観たいものがある人は、一番に提案するのだそう。
ちなみに映画を観る席も早いもの順。
「ごはんを食べ終えた人から移動して、特等席のソファ、クッションを置いた窓際……といい席から埋まっていって、最後に残った人はダイニングの椅子から観るんです」と笑う美佳さん。
▲特等席を確保して、ゆうゆうと映画を観るダリアちゃん。ソファはザ・コンランショップで購入したジェルバゾーニ社の「GHOST」シリーズのもの。ソファをすっぽりおおうカバーは取り外し可能。バリエーションも豊富でスペースや好みに応じて組み合わせられるのも魅力。
母娘の距離が自然に縮まるワインの時間
ダリアちゃんや甘党の旦那さんのために手づくりのスイーツをふるまう美佳さんですが、実はワインが大好き。
同好の士のれなさんと、ワインを片手に語り合うひとときもまた、大切な時間となっています。
「最近、近所にポルトガルワインのお店ができて。コストパフォーマンスがいいよね」「そうだね」
まるで友達同士のような会話を繰り広げるふたり。
「共通の話題や友達も多いんですよね。私が行けなくなった集まりに、いつのまにかれなが誘われて行っていたりするんですよ」と美佳さんが言うと、れなさんも反撃。
「私の友達もママと一緒に飲んでいるうちにすっかり仲良くなって、『美佳さんに会いたいから鎌倉行こうかな』なんて言われちゃった」
▲チーズやフルーツなど、ちょっとしたおつまみを添えて、気ままな宴の始まり。家にダリアちゃんを迎えに来たれなさんが、ワインを飲み始めてそのまま朝に……なんてことも。
一周回って「主婦の仕事が一番楽しい」
まるで“友達親子”のような2人ですが、「昔はもっと教育ママだったんですよ。母の背中を見て育ったとは思うけど、一緒に楽しむという感じではなかったかも」とれなさん。
美佳さんも、「れなや2人の息子には、いつも『こうしなさい』って言ってばかりでしたね。親としての責任感が強すぎたのかもしれない」と振り返ります。
やがて訪れた反抗期。
子どもたちに自我が生まれ、自分の手が届くのはここまでだと悟ったとき、美佳さんは子離れを決意したそう。
もともとは専業主婦だった美佳さんですが、その美意識あふれる暮らし方やセンスを買われ、雑誌の読者モデルやライターに。
そこから雑貨店やカフェ、花屋を開き、ワークショップも開催するなど、「これがやりたかったのかな」と思うことをひとつずつ実現させていきます。
目の前の仕事に精一杯取り組み、関西で評判の人気カフェになるまでお店を育てたのち、潔くそのキャリアを手放して鎌倉に移住したのが、4年前。
その際に声をかけたのが、当時、東京都心でダリアちゃんを育てていたれなさんでした。
「ダリアの子育てをするなら、自然のある鎌倉でゆっくり暮らしたほうが絶対いいよって、強引に誘ったんです」
れなさん一家も引っ越してきて、現在は文字どおり“スープの冷めない距離”に。
美佳さんはワークショップや撮影などの仕事を続けながら、放課後遊びに来るダリアちゃんと鎌倉の自然や手仕事を楽しむ日々を過ごしています。
▲鎌倉で薔薇をテーマにお茶会を開催したときの写真。美佳さんは装花とデザートを担当。ワークショップ形式で生徒さんとつくりあげたテーブルは、うっとりするような美しさ。
「ダリアは相棒みたいな存在なんです。好きなことが似ていて、ツーカーの呼吸でお手伝いをしてくれる。私も責任やプレッシャーがないせいか、遊んでいるような感覚で。昔は余裕がなくてできなかったことを、今叶えられているような気がします」と、顔をほころばせる美佳さん。
「子育て中はただ必死でしたけど、今になって主婦の仕事は最高だな、と思うようになりました。家族がいるからこそ、おいしいものをつくろうとか、部屋を整えようとか、やる気も起きる。主婦ってひとりではなれないんですよね」
▲プリンは、甘いものが苦手なれなさんが食べられる、数少ないデザート。れなさんが幼い頃からつくり続けるうちに、今では美佳さんの定番メニューに。
自然を感じながら暮らす住まいづくり
鎌倉に引っ越した当初はコーポラティブハウスに住んでいた美佳さんですが、植物とともに暮らしたいという思いが募り、家づくりを決意。
2020年に庭のある2階建て3LDKの一軒家を完成させました。
庭のコーディネートは自由が丘のボタニカルショップ「seeding」に依頼。
前述のように野菜や果樹を植え、念願の庭づくりに取り組みました。
さらに「家も、外の空気を感じながら暮らせるようにしたかったんです」という美佳さん。
なるべく庭を広くしたいから、家は小さくていいけれど、ゆったり暮らせる余裕はほしい。
多くの小規模住宅の設計を手がけてきた建築家・中村好文さんの本を愛読していた美佳さんは、自ら図面を引き、設計士さんにイメージを伝えていきました。
その結果、美佳さんのこだわりはおうちの随所に。
カーテンレールを天井に取り付けて窓を高く見せたリビングは、実際の面積よりも広々と感じられます。
美佳さんが大工さんとかけあって実現させたベニヤ板の壁は、簡素であたたかみのある雰囲気。
掃き出し窓に、出窓、腰窓。
庭に面した3種類の窓は、それぞれの形で庭の緑を切り取り、違った景色を見せてくれます。
窓にかけた透け感のあるリネンのカーテンや和紙のブラインドは、やわらかな陰影をもたらし、朝昼晩と移り変わる光を繊細に映し出します。
▲リネンのカーテンは、美佳さんが自分で布を買って縫ったもの。腰窓にあえて床まで届くようなカーテンを合わせることで、窓が高く見えるほか、優雅で軽やかな印象に。
「小さな家」にこだわったのには、もうひとつ理由が。
「自分ですみずみまで手入れしたいから、小さい家のほうがいいんです。“手に余る”のが苦手なんですね。なるべく引き出しのように奥行きがある収納もなくしたい。見えない部分ができるのがいやなんです」
自分の手に持てるだけの範囲をはかって、どこまでコンパクトにできるか、試行錯誤の日々だと言います。
隠したいもの、見せたくないものはどうするんですか? と質問すると、「隠したいものは買わない」ときっぱり。
▲キッチンの壁面のオープン棚はIKEAで見つけたもの。美しいデザインのお茶や調理器具などを並べたこのコーナーは、美佳さんのお気に入り。「台所ってどうしても散らかってきますよね。そういうときでもここさえ整っていたら『大丈夫』って思える。私にとって救世主的な存在なんです」
「あの花瓶はジャンバティスト アスティエドヴィラットがつくった花瓶で、フランス・ロワールのシノンで買って大事に持ち帰ってきたんです」
「この照明は福岡のLIGHT YEARSというショップで買ったもので……」
インテリアについて質問すると、すぐに答えてくれる美佳さん。
ひとつひとつのものを、明確な意志を持って選んでいることが伺えます。
▲クローゼットや洗濯物干し場などは2階に集約されているため、1階のリビングに生活感のあるものはほとんどなく、飾り棚の下にさりげなく掃除機などが置いてある程度。様々なものが飾られていてもすっきりとして見えるのは、そんなところにも秘訣がありそう。
Point!
かんたんDIYで、お気に入りのコーナーを
ほしい家具が見つからなかったら、自分でつくってしまうのが美佳さん流。
簡単なボックスなら釘やノコギリいらずで完成!
木工用ボンドでつくるディスプレイボックス
1. ボックスを置くスペースから長さ、幅、高さを決め、ホームセンターで好みの木材を上下左右の4枚分、カットしてもらう。2. 下に来る木材の両端に木工用ボンドを塗り、左右の板を乗せて上からしっかりと押し付け、乾かす。
ボンドがはみ出ても、濡れた布などで拭き取ればOK。3. 左右の板の上端にボンドを塗り、上に来る板を乗せて上から押し付け、乾かせばできあがり。
▲器や写真集、雑誌、拾い集めた流木やお手製の月桂樹の冠…etc. ディスプレイボックスを並べて、お気に入りのものや季節の飾りをあしらうコーナーに。このボックスが置かれたテーブルも、美佳さんがホームセンターで買った木材でつくったもの。
新しい住まいで育む子どもたちとの新たな関係
美佳さんの鎌倉の家が完成して1年。
海外へ出ることが多かった息子さんたちも、コロナをきっかけに日本にいる時間が増え、何かと理由をつくってはこの家で集まるようになったそう。
「夫のメガネをつくり直そうと思って、このデザインはどうなのかな?と息子に相談したら、『それはちょっとキャッチーすぎない?』なんて言われて。それでおすすめされたメガネを見に行って、また写真を送って意見を聞いたり……最近は息子に教えてもらうことばっかりですね」
時とともに親子の関係がフラットなものに変化したことで、だんらんは情報交換やお互いの理解を深める場にもなっているようです。
れなさんも「かつてはお母さんが圧倒的な存在だったから反抗したりもしましたが、でもやっぱり兄弟みんな何かしら影響を受けているんですよね。子どものときはママから『これをするといいよ』と教わっていたけど、やっと『ママはこういうものが好きだろうな』とキャッチボールできるようになったのかな。今は、趣味嗜好が近すぎて怖いくらい」と笑います。
▲「飲んでいるときは、お母さんというよりも『美佳さん』と遊んでいる感覚なんですよね」と話すれなさん。「弟たちもひとりの女性という意識で接している気がします」
大地にまいた種が芽を出し、開花し、実ができてまた種となって土へと還るように。
美佳さんが暮らしの中で大切にし続けてきたことは、子ども、孫と世代を越えて受け継がれ、循環しているようです。
美佳さんのだんらんのエピソードを聞いていると、家とは、ただ住むための場所ではなく、家族が感じた幸せや豊かさ、価値観を交換し、共有する場なのだと感じます。
家族の好きなものを知っていますか?
そして、自分の好きなものを家族に伝えていますか?
日々やるべきことに追われていると、自分の「好き」が二の次になったり、家族の気持ちが見えなくなったりすることもある。
それでも。ひとつでも家族の好きなメニューをつくり続けたら、それが思い出のメニューになるかもしれないし、週に一度でも自分の好きなことを家族とやってみたら、みんなの楽しみになるかもしれません。
目には見えなくても、日々伝えてきたことは家族の中につもり、育ち、熟成し、きっと大きな愛となってかえってくる。
今の家族との関係を話す美佳さんのやわらかい笑顔から、そんなやさしい希望をもらいました。
たおやかな雰囲気の美佳さんですが、インテリアはアイアンやベニヤ板、ガラスなどの素材を生かした硬派なテイストが好み。
無駄な装飾のない無機質なものと組み合わせることで、植物のみずみずしさがより引き立つ効果も。
美佳さんに行きつけのショップを教えていただきました。
ザ・コンランショップ
世界中から厳選された家具や雑貨などが揃うホームファニシングショップ。
コンラン氏の哲学が反映されたシンプルで機能的なインテリアには、普遍的な魅力があります。
P.F.S. PARTS CENTER
人気インテリアショップ「PACIFIC FURNITURE SERVICE」の姉妹店。
恵比寿にあるショップにはパーツや道具、スチール家具などのインダストリアル系アイテムが満載。
toolbox
床材や木材などの内装建材や家具の部品、ドアノブ、照明…etc.
DIYやリノベーションに役立つ様々な素材やパーツが集まったウェブショップ。
目白にショールームもあり。
コーナン
全国に支店のあるホームセンター。木材の種類が豊富で、希望したサイズにカットしてもらえるほか、ネジ、釘やレールなど、DIYに必要なものがひととおり揃います。
▲つくり付け家具のように見える棚も、美佳さん作。ヒーターの両脇にIKEAの薄型の棚を設置し、上に長い板を乗せてつなぎ、ヒーターの上部にできた空きスペースには、棒状にカットした板を木工用ボンドで貼りつけてカモフラージュ。「板はコーナンでカットしてもらったから、ほとんど手はかかってないんですよ」。
文章:野田りえ
写真:Maya Masuda