「だんらん」を辞書で引くと、「親しい者たちが集まって楽しく時を過ごすこと」。
何かこれといって目的があるわけではない、泡のように消えていく楽しい時間。
でも、その積み重ねが、家族や大切な人を支える大きなパワーになるかもしれない。
いろいろな家庭のだんらんの形を、住まいや暮らしの工夫から読み解く連載「家族がつながる、だんらんの部屋づくり」がスタート。
第二回目は、NEXTWEEKEND代表・村上萌の「だんらんの部屋」後編。
前回ご紹介したおうちのカスタマイズはどうやって進めたのか、そして萌さんにとってのだんらんの意味とは?
一歩踏み込んだお話を聞いてきました。
▲大人が何人も入れるほど大きな屋根裏部屋。
「内見した時は夜だったので“まっくろくろすけ”でも出て来たらどうしようと思って」と萌さん。
昼間に改めて見ると、窓もあってなかなか快適だったので、クリスマスツリー用のガーランドライトをつけてみたら……なんとも楽しい秘密基地に変身!
家族を巻き込んで「部屋づくり」を楽しいプロジェクトに
リビングや和室の大規模な模様替えに、濡れ縁の設置、カーテン類の総入れ替え…etc.
多岐に渡って行われたおうち改造(第一回参照)ですが、驚くことに計4日で大半が完了したそう。
「ちょうど出張が多い時期だったこともあって、あんまり時間をかけられなかったんです。
だから『次の土曜はカーテンの日』なんてふうに目標を決めて、それに合わせて設置業者の方や大工さんに来てもらったり、平日に必要な家具や道具を選んで当日までに取り寄せたり。
段取りを組んで、一気に目標のところまで仕上げるようにしていました」
▲和室で意外に目立つのが畳の「縁」。
畳と同系色の縁や、縁なしの畳にするとすっきりした印象に。座椅子や座布団、花瓶などのインテリアも色味を統一し、モダンなデザインのものを選んだそう。
急ピッチで行われたカスタマイズ。
でも、一気に進めたからこそ、よかった部分もあったかも、と笑う萌さん。
「夫は当初、部屋のインテリアにそこまで違和感を覚えていなかったんです。
私も根は面倒くさがり屋。
後回しにすると、私の違和感まで消えてしまいそうだったので、気になる部分は早めに解決しようと思いました。
大本をあきらめてしまうと、いろいろなことがどうでもよくなって、花を飾るのすら楽しくなくなってしまいそうで」
インテリアへのこだわりの温度差というのは、どの家庭でもありそうなこと。
それを解消するコツは、「楽しいことだけ巻き込む」ことだそう。
「私は、部屋のビジュアルが精神的な満足度にすごく関わってくるタイプなんだと思います。
ただ、それを人に押し付けるのは違うのかなって。
夫も日曜大工は好きなので、濡れ縁などハード面については相談していました。
私は木製の濡れ縁にしようと考えていたんですけど、夫に聞いたら、雨に濡れると色が落ちたり劣化したりするから、人工樹脂がいいんじゃないかな、という話になって。
そんなふうに家族が得意なことは決めてもらうと、一緒にプロジェクトを進めている実感も湧いてきますよね」
▲濡れ縁の色も素材も、最終的には賢さんが決定。
「やっぱりこの素材にしてよかったね」と日々満足しているそう。
部屋づくりも、コミュニケーションもあきらめない
重要なのは「一緒に楽しい時間を過ごす」というだんらんの目的を見失わないこと、と萌さん。
「『何でわかってくれないの!』って怒るのは、本末転倒な気がして。
実際にカスタマイズしてみたら、夫も『やってよかったね』ってしょっちゅう言っています。
こだわりや思いを完全に共有するのは難しくても、楽しくだんらんしたいという気持ちは同じだったら、そこを大事にすればいいのかな、と思っています」
萌さんが月刊コラム「全体効率を良くしてくれるのは、納得できる部屋作り」で新居の和室カスタマイズの写真を公開した時、和室のあるおうちに住んでいる方からたくさんの反響があったそう。
「和室の時点で素敵な暮らしは難しいと思っていた、という方が多くて。
もちろん、気に入っているならどんなインテリアでもいいと思うんです。
でも、どこかで『本当はこうしたかった』という思いがあると、あきらめの気持ちは家族にも伝染するんですよね。
楽しいことをしなくてもいいや、片付けもしなくていいか……ってなってしまう」
まず、大切なのは、明日を今日よりもよくしようと思う姿勢。
それさえあれば、何かしらできることは見つかるはず、と萌さんは言います。
「一気に家全体をカスタマイズすると思うと、少しハードルが高く感じるかもしれませんが、まずは小さな空間でもいいから、ひとつ変えてみる。
それがうまくいったらちょっとずつ広げていく。
自分から行動したら、それは他の家族にも伝わりますよね。
『奥さんががんばって壁紙を張っていたから、この前にパンツを置くのはやめよう』って旦那さんも思ってくれるはずです(笑)」
▲白い壁に囲まれた萌さんの仕事部屋。
1か所にブルーの壁紙を張って、杏ちゃんのキッズスペースに改造。
空間にメリハリがない場合、壁紙を変えるとガラッと印象が変わるそう。
とはいえ、インテリアを変えるのは勇気がいるという方も。
簡単にできて部屋の印象が大きく変わるアイデアを萌さんに聞いてみました。
1.電球を変えてみる
「オフィスで使うような青白い色の電球は、くつろぐ時間にはやや不向き。
レストランは5時すぎるとちょっと照明を落としてムーディーにしてくれたりしますよね。
同じようにだんらんの場の電球を、落ち着いた色のものに変えるだけでも雰囲気が変わります」
▲萌さんがリビングの照明に使っているのは、自然光に近い色合いの「昼白色」のLED電球。
夜はよりあたたかみのある色の間接照明を灯してリラックス感を演出。
2.音楽を変えてみる
「テレビのない我が家に欠かせないのが音楽。
朝は爽やかなアコースティックサウンド、夜はムードたっぷりのジャズ…etc.
音楽を変えると部屋の雰囲気まで変わるんです。
いつの間にか娘まで『アレクサ、ジャック・ジョンソンかけて』なんて言っています」
3.カーテンの開け方を変えてみる
「うちの障子は下半分が障子とガラス窓の二重構造になっている『雪見障子』。
朝起きた時は障子を全部上げて、夕方になると半分下ろし、夜は全部下げる、というふうに変化をつけています。
カーテンでも同様に光の入り方を意識してみると発見があるはず」
▲「この家に引っ越してから、日々表情が変わる庭を眺めるのが楽しくて」という萌さん。
木々の緑に季節の草花。窓から見える風景も、部屋の雰囲気をつくる大切な要素。
村上萌のだんらんのルーツ
萌さんの胸にいつもある理想のだんらんの部屋。
それは幼いころから週末を過ごしてきた、お祖母さんの家だと言います。
「祖母の家は週末になると親戚が集まって、しょっちゅう10人単位で夜ごはんを食べていたんです。
食卓は会話が絶えなくて、『最近どう?』と近況を聞き合ったり、誰かの過去の面白エピソードが飛び出したり。
子どもながらに本当に大好きな時間でした」
食後は、大人は麻雀をしたり(なんと麻雀専用の部屋があったとか!)、キッチンでお茶を飲んだりと思い思いに過ごし、子どもたちはかるた大会。
ひたすら楽しむだけの時間を通して、萌さんは、人と人の心が通う方法を自然に学んでいきます。
「夫と付き合っている時、母に紹介した次に、いきなり親戚一同での熱海旅行に連れて行ったんです。
両親にご挨拶、みたいなシチュエーションだと、面談のようになってしまいそうですが、だんらんをともにすれば、お互いを理解できるのかな、と思って。
私の父は自分からあまり話しかけるタイプじゃないんですが、麻雀を一緒にすることで夫も自然に仲良くなれたようです」
▲100年近くの歴史を刻んだお祖母さんの家。
ドイツ風のかわいい洋館や、四季折々の自然あふれる大きな庭で過ごした日々は、萌さんの原点になっています。
この家と土地はお祖母さんの死去により手放すことになったものの、その後、萌さんのお母さんが新居を構え、だんらんの場を受け継がれているそう。
▲理由がなくとも親戚が集い、食卓はいつもにぎやか。
まだ彼氏だった頃の賢さんは、初めてこの家に来た時、「今日ってお正月じゃないよね……!?なんでこんなに人がたくさんいるの?」と混乱していたとか。
親戚と過ごすだんらんの時間は、それぞれの人となりや活動を知る機会にもなっていました。
「語らいの中で、従姉妹のお姉ちゃんはとっても文章がうまいとか、親戚のお兄ちゃんはこんなことをがんばったなんて話もよく出てくるんです。
『すごいね、よかったね』って一緒に喜んでもらえたり、ほめてもらえたりすることが、みんなの明日の自信にもなっていたのかな、と思います」
萌さん自身も成長するにつれ、活動の場が広がっていきましたが、折に触れて支えになったのが、だんらんの場でのやりとりでした。
「近況報告をすると、自分を小さい頃から知っている親戚たちから『萌は昔からそういうのが得意だったね』とか『萌はそんなことができたんだ』なんて反応が返ってきて、すごく励みになったんです。
親戚との会話を通じて『私』を再認識できたからこそ、どの場にいても自分を信じることができたような気がします」
▲毎週末、お祖母さんの家に泊まりに来ていた萌さん(右)と同年代のいとこ(左)。
幼少時から成長を見守ってきてくれたブラウンのソファは、萌さんのオフィスに引き継がれ、今も現役で活躍中。
▲お祖母さんと入るお風呂もまた、貴重なだんらんの場。
四季折々に咲く花の名前、暮らしの中で自然を楽しむ方法…etc.
お祖母さんから教わったことは、萌さんの生活の中にしっかりと息づいています。
家族のだんらんは「心が帰る場所」
たくさんの勇気や元気をもらってきただんらんの場。
萌さんは、自分が結婚して家庭を持ってからも、だんらんは絶対に大切にしようと思ってきたそうです。
「だんらんは、何か目的がはっきりあるわけでもなく、ただ、お互いを好きになって楽しむだけの時間。
でも、『好き』から得られる安心感って、とっても大きいんですよね。
これは娘にも、夫にも、そして私自身にも言えることなんですが、家族の中での自分が“好きな自分”であるといいな、と思うんです。
不安なことも多い時代ですが、今、積み重ねたものが急に崩れたとしても、ベースの土台を好きでいられたら、すごく心強いはず。
外で何があっても、心が帰る場所があれば、また元気を取り戻せるんです」
▲一日中ビニールプールで遊んだり、バーベキューをしたり。
引っ越し以来、家族と庭で遊ぶことが増えた杏ちゃん。
「一緒に笑って過ごす中で、杏にもちゃんと自分を好きになってほしいな、と思っています」
もちろん、理想どおりにいかないのも家族。
忙しくて家族だんらんの時間が持てない、気持ちの余裕がない、そんな話もよく聞きます。
萌さんも自身の出張や賢さんの仕事の都合で一緒に過ごせないことも。
「そういう時は、夫が頻繁に電話をくれたり、写真を送ってほしいと言ってくれたりするんですよね。
私は仕事で電話に出られないことも多いんですけど。
たまたま出たら、『あーびっくりした。心の準備ができてないから一回切るね』って言われて、こっちもびっくりしたりして(笑)」
どういう状況であれ、相手が何をしているか知りたいし、相手も自分のことを知りたいだろうと思っていることが大切なのかな、と萌さん。
「自分は忙しいし、どうせあっちも忙しいだろうからコミュニケーションをとらなくてもいいや、となると、お互いが何をしているかわからなくなっちゃいますよね。
同じ場所にいなくても『お昼にこんなのを食べたよ』って写真を送ったり、『仕事終わったよ』ってメールしたり。
そんな小さなことを伝え合える距離感でいたいな、と思っています」
家族がチームとして機能するために
萌さんが笑いながら語る小さなこと。
でもその積み重ねが、いつしか家族をつなぐ基盤になっているようです。
「ふだんから質問したり、答えたりしていると、相手の状況を自然に把握できるんです。
急に『折り入って話を聞きたいんだけど』なんて言われると、逆に話しづらかったりしますよね。
でも、毎日のだんらんでこまめに話していれば、家族が楽しんでいることも、抱えている不安も感じ取れる。
そうするとお互いを気遣えるし、何より楽になると思うんです」
「編集長がこたえます」のコーナーで、いろいろな方のお悩みに接してきた経験から、悩みもその都度話していれば、大事になる前に解決できることもあるはず、と言います。
「悩みが深刻化する前に、早めに話し合っていたら解決しそうなケースもありますし、自分の思い込みで悩みが深くなっている方もとても多くて。
そういう意味でも、気軽に話せるだんらんの場は貴重だな、と感じています」
萌さん自身、ささいな不満や悩みを小出しにすることで、大きな問題に抱えずにすんできたそう。
「私もイラッとしたり、機嫌が悪くなって黙り込んでしまうこともあるんです。
そんな時は夫が『ちょっとちょっと』ってすぐに声をかけてきて、話を聞いてくれるから、短期間で平和な状態に戻れるんだと思います」
「同じ目標を持って助け合う」という意味を込めて、萌さんは家族を「最小単位のチーム」だと表現します。
「お互いの夢を共有して、支え合う。
家族にはそんな役割があると思っています。
でも家族は職場などのチームと違って、目標を達成したら終了とはならないですよね。
ずっと一緒にいるからこそ、大事なのは毎日の微調整。
喜びも悩みもだんらんの場でこまめに共有して、ともに歩き続けられたらそれでいいのかな、と思っています」
▲天気のいい休日は、庭のテーブルでランチやお茶をすることも。
大阪に住んでいたころはカフェに行ったりしていたけれど、今は家で過ごす時間が一番心地よいのだそう。
萌さんのおうちを見て最初に感じた「居心地がよさそう」という印象。
それは、素敵なインテリアもさることながら、家族3人の笑顔が満ちあふれているからなのかもしれません。
おしゃれなインテリアの部屋、憧れの家具のある部屋…etc.
SNSや雑誌などにはさまざまなイメージがあふれていますが、一番大切なのは、「どんなふうに住みたいか」。
萌さんのお話から、そんなことを教えてもらった気がします。
家族と笑いながら暮らせる住まいってどんな家?
自分の家族にフィットするだんらんの形とは?
みなさんも一緒に考えてみませんか?
文章:野田りえ
家族の写真:中嶋史治