キッチンから投影される、スタイルのある暮らしぶりを訪ねる連載「わが家のキッチン、暮らしのかたち」第8回目。
「いらっしゃい! 首を長くして待っていたのよ」と、パワフルで大きな笑顔で出迎えてくれたのは、ケイティー恩田さん。
前回の記事「食器も文化も、永く紡いで楽しむ。アンティークバイヤーのキッチン」でご登場いただいたルーシーさんの、センスある暮らしのルーツがご実家にあると知り、娘から母へとつながる親子リレーとなりました。
▲「ピンクの服が好きなのよ」とチャーミングに笑うケイティーさん。
キッチンでの立ち姿が、キリリとかっこいい。
ケイティーさんは、英国のアンティーク家具や雑貨を扱う「英国生活骨董KATY’S HAYAMA」を主宰。
欧米スタイルの家庭料理やテーブルコーディネート、季節のフラワーアレンジメントなどを通して、暮らしの楽しみ方を提案しています。
自宅の場所は、自然豊かな葉山の高台。
「不動産見学が私の趣味なの。
届いた案内FAXを見て、買う予定はないけど、ちょっと見学だけ…と思っていたら、気に入ってしまって衝動買い。
その日のうちに契約書にハンコを押しちゃって」
そんな驚きのエピソードにも、自身の直感を信じて即行動するケイティーさんらしさが表れています。
アンティークとの暮らし方
▲夕暮れへ移り変わるひととき。
娘・ルーシーさんと一緒にティータイムの準備中。
英国を中心としたアンティークが集まり、あたたかな灯りに包まれたリビングダイニングは、まるで映画に出てきそうな雰囲気。
クラシカルな重厚感の中に、わくわく感も漂います。
ダイニングテーブル上には、素敵なテーブルコーディネートがスタンバイされ、英国アンティークに混じって、古伊万里のお皿をセッティング。
娘・ルーシーさん宅でも見られたアイデアです。
その他にも、お皿をアートのように壁に飾ること、ティータオルを思うままに自由に使うこと…
「これが、ルーシーさんの原点だったんだ」と感じられる要素がいくつもありました。
長い時を越えて愛されてきたものへの敬意を持ち、今の生活の中で素敵に役立て、楽しむ。
娘にも継承されたケイティースタイルは、空間の隅々にまで表現されています。
わくわくするディスプレイの極意
キッチンをぐるりと見渡すと目に飛び込むのが、驚きのディスプレイアイデアです。
圧巻なのが、壁の一面に並べられた紅茶の缶、缶、缶。
その膨大なコレクションは、まるでミュージアムのよう。
ケイティーさん:
「昔、製缶印刷の仕事をしていたことがあり、美しい色や柄の紅茶缶を見るのが大好き。
ついつい買い集めてしまいます。
お気に入りをいつでも眺められるように、専用の棚を一段、また一段…と作ったら、こんな姿になりました。
一つ一つに思い出があるので、見飽きることがありませんね」
と、ルーシーさん宅にもあった紅茶棚の本家をここに発見。
▲「下の二段は、器用な夫が作ってくれたのよ」。
棚がいっぱいになったので、ドアの上にも小さな棚を増設。
目線を上げると、食器棚の上に空き箱がなんとも楽しく積み重ねてあり、キッチンの出窓を覗くと、外の木々に小さな陶器のティーカップをぶら下げている…発見するたびに心ときめくアイデアは、ぜひ真似したいところ。
▲もらったお土産の空き箱を飾っていくうちに、ついに天井の高さまで!
▲出窓から見える木には、「リスが昼寝しに来ることもあるのよ」と。
物量があっても美しく整える秘訣は、「家の中に好きじゃない場所を作らない」ことだそう。
それは、心地よく暮らすための、究極の理想ともいえます。
魅惑のポートメリオン・コレクション
キッチンを華やかに彩るのが、英国ブランド「ポートメリオン」の陶磁器たち。
まるでボタニカルアートのように、精緻で、生き生きと描かれた植物デザインが特徴です。
ケイティーさん:
「素敵でしょう?
収集のきっかけは、友人からのプレゼントだったのよ。
出張や旅行先で思いかけず出会うこともあるし、廃盤になった絵柄をアンティークフェアで探したことも。
バリエーションがとにかく豊富で、使い勝手も良くて丈夫。
我が家の料理教室にいらっしゃる生徒さん達も気に入っちゃって、リクエストがあったら買い付けることもあります」
器の中に季節を閉じ込めたような、懐かしくも温かみのあるデザインは、揃えて並べることで、抜群の統一感が生まれます。
▲ポートメリオンの代表シリーズ「ボタニック・ガーデン」のジャーやボウルが大集合。
キャビネットは、娘・ルーシーさんが幼少期に使っていた本箱をリユース。
「プラスチック製品は使わない」「便利なキッチングッズは持たずに、包丁一本のみ」など、キッチン内にもポリシーがたくさんあり、ケイティーさんの言葉を借りれば「全部がこだわり」。
ケイティーさん:
「そうそう、ラジオもキッチンの必需品ね。
AFN(アメリカ国外に駐留する米軍人向けの放送)が好きで、小さい頃からこれを聞いて育ったのよ。
今でも、朝から夜まで、家に誰も居なくても流れているくらい(笑)」
▲愛用中の乾電池式ラジオ。
日常を豊かにするティータイム
「さあさあ、座って座って。たくさん食べてね」
ケイティー流のティーパーティがスタート。
アンティークの器に、美しい彩りのサンドイッチやキャロットケーキがとびきり映えます。
ケイティーさん:
「サンドイッチは、我が家の定番メニュー。
以前出版した書籍にもレシピを載せているの。
実は、ルーシーのリクエストで急きょ用意することになったから、昨日の夕方に慌てて食パンを買いに走ったのよ(笑)」
▲定番のキューカンバー、ハムと紫玉ねぎ、卵のサンドイッチ。
卵には、ふんわりと香るシナモンが隠し味。
ケイティーさんが子供の頃に夢中になったのは、『ピーターラビット』や『不思議の国のアリス』などの物語。
作中に必ず出てくるお菓子と紅茶にわくわくし、みんなで囲むティータイムに憧れていたといいます。
「うちでとれた人参を使った、キャロットアップルケーキと、パンプキンブレッドもどうぞ。中にスパイスが入っているのよ。何か当ててみて!」と、クイズを出されたり、
「紅茶のお代わりはいかが。私が注ぐから大丈夫よ、ホストが注いでまわるものだから」と、シルバーのティーポットを片手にしたケイティーさんから自然と教わるティーマナーに、すっと背筋が伸びる瞬間も。
なんとも楽しく夢心地なひとときに、絵本の中の物語を実体験しているような感覚になりました。
▲たっぷりと用意された紅茶のお供は、優しい甘さのなかに、スパイスの香りがキリリと立って、じんわりと心に残る味。
ケイティーさんにすすめられて取材スタッフが完食! 胃も心も満たされて幸せな気分に。
贈り合うのは、家族への愛情
取材中に驚いたのは、キッチン内だけでも母娘の思い出の品がたくさんあったこと。
「ルーシーからの贈り物なのよ」と見せてくれたのは、カットボードや絵付きの大皿、なかにはひき肉を作るミートミンサーまで(ルーシーさんが高校生時代に買ってきたものだとか!)。
▲ルーシーさんから贈られたカットボードは、ケイティーさん60歳のバースデーの日づけが刻まれた特別なもの。
「私の背中を見て、好みを熟知していることにとっても感動したの」と、何とも嬉しそうな母の隣で、照れたように静かに微笑むルーシーさん。
そして、取材した日は、ちょうどクリスマスシーズン。
ツリーのオーナメントを一つ手に取り、
「最初に、この“ミニルーシー”を飾るのがルールなの。二番目に飾るのは、お父さんに見立てたオーナメントね。えぇっと、他には、1992年にもらった“Lucyより愛を込めて”と書いてあるものでしょ…すべて語れるくらい、一つずつに思い出が詰まっているのよ」
家族みんなで共有している濃密なストーリーは、毎日の小さな幸せを積み重ねたもの。
今は一緒に暮らしていなくても、想い合う気持ちは一緒。
そのことの大切さを、教えてもらった気がしました。
▲「さ、これから私宛のプレゼントを開ける儀式をしようかな」と、娘のルーシーさん。
なかには、夫の洋介さんからケイティーさんへ“Lovely Wife”と書かれたプレゼントも。
連載「わが家のキッチン、暮らしのかたち」をご覧いただきありがとうございました。
ぜひ皆様の声をお聞かせください。
たくさんのご意見をお待ちしております。
Text:Hitomi Takahashi