独自のスタイルがある方々の、キッチンにまつわる工夫やこだわりを拝見する連載「わが家のキッチン、暮らしのかたち」。
第6回目は、キャラクターアーティスト・タロアウトさんのご自宅兼アトリエへ。
編集長 村上萌を始めとするNEXTWEEKENDスタッフとは、プライベートでご飯を囲む旧知の仲。
3年前から始めた「タロ・ア・ターブル」と名付けた自宅での食事会では、人と人のご縁をたくさん繋いできたタロアウトさん。
今では、ホームパーティの枠を超えて、ひとつのコミュニティになっています。
料理にも素材にも、人付き合いも、そして環境にも、すべてに真摯に向き合うタロアウトさんに、おもてなしの極意を教わりました。
▲ホームパーティ前提で選んだカウンターキッチン。
ダイニングのゲストとも会話ができるちょうどいい距離感。
「お料理一年生」から始まった
▲タロアウトさんが生み出した「ラッキーバニー」のラニーがお出迎え
リビングとダイニング、カウンターキッチンがひと続き。
ヴィンテージマンションならではの重厚感に、2方向のテラスから自然光が入り、センスが光るポップな彩りが点在。
すっきりと、だけど楽しげに、居心地の良い空間を作っています。
タロアウトさん:
「4年前までは、全く料理をしてなかったんです。
たまたま見てもらった手相占いで、これからのあなたの周りに人が集まる、と言われて。
でも仕事柄、引き篭もり生活だったから当時は信じられなかった。今思えば、予言的中でしたね(笑)」。
料理への扉が開いたのは、仲の良い友人主催の料理教室がきっかけ。
「#お料理1年生」とハッシュタグをつけて、プライベートで料理を作ってみてはSNSに投稿。
自他共に認める凝り性のタロアウトさんは、パニーニを100日作り続けた過去も。
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作った料理を食べて欲しくて、初めて開いたホームパーティでは、
「段取りが悪くて、オーブン料理はひっくり返すし、複数の料理を同時に作る難しさを予測できず、結果、2時間以上ゲストを待たせてしまいましたね(笑)」。
ちょっぴりほろ苦い記憶だけど、頑張って作った料理を喜んでくれるゲストの姿に、いままでにない達成感を得たタロアウトさん。
「食べてもらう喜び、誰かと食べる楽しさにどんどんはまっていきました」とのこと。
キッチンは、人と人を繋ぐ場所
「タロ・ア・ターブル」と名付けたホームパーティを始めて3年目。
なんと通算130回(2019年12月現在)も開催!
その継続力に感嘆しつつ、ホームパーティを続ける秘訣を聞いてみると、「無理をしないこと、遠慮なく人に頼ること」とタロアウトさん。
タロアウトさん:
「最初の失敗もあったので(笑)家に来てくれた順に役割分担して、みんなでワイワイ作るアットホームなスタイルにしました。
僕の周りには料理上手が多いですし、初めましての方がいても、共同作業でぐっと距離が縮まる。
食べる前の過程も楽しいんですよね」
ゲストを招くときは、「ホストだから頑張らなきゃ!」って、背伸びしがち。
大好きな人たちと楽しい時間を過ごすことが目的だから気負わなくていい、ということに気付かされます。
体を動かすスポーツ仲間、銭湯好きが集まる「男湯部」メンバー、常連フレンズの誕生会、街で知り合った店員さんに声をかけた(すばらしいコミュ力!)「表参道で働く会」など、メンバーも趣旨も、その都度変わるそう。
タロアウトさん:
「“あの人とあの人、きっと合うだろうな〜”と想像して、メンバー決めから計画します」
湧き上がった好奇心と、「喜んでもらいたい」という願いが根底に存在する「タロ・ア・ターブル」。
タロアウトさんの人間力から、どんどんハッピーな輪が広がっているのを感じます。
ホームパーティーに欠かせない名脇役
▲集いの会の人数は、その時によってまちまち。
なので、タロアウトさんのお宅には椅子がいくつも置いてあります。
タロアウトさん:
「イームズの椅子はスタッキングできるので、使わない時は重ねられるのも魅力。
折りたたみ式のスツールは、ワークショップで作ったものです。
デザイン性と機能性を両立したデザインは、人を呼ぶお家に便利ですね」
▲長野県上田市にある北欧家具店「haluta」のワークショップで制作。
「mina perhonen」のファブリックを自分で選んでパッチワーク。
そのまま食卓に置いても絵になる鋳物の鍋も、パーティで大活躍するアイテム。
タロアウトさん:
「ブルーのストウブ鍋は、見た目が気に入って、料理をやり始めて最初に購入したもの。
一人暮らしに22cmサイズは大きかったかなと思いましたが、パーティでは煮込み料理などで活躍中。
さらに使い勝手を求めて14cmサイズ、18cmサイズと、どんどん増えていきましたが(笑)」
▲友人が旦那さんに作ってもらって感動したというレシピ “恋するシチュー”を作る頻度が多い。
▲「物がどんどん増えてきたので自分で作ったんです」というステンレスの棚に、鋳物鍋がベスポジのように鎮座。
自然に集まってきたお気に入り
器やレシピ本などは、「これ使えると思って持って来たよ」と、友人たちが持参してくれたものも多いそう。
人だけじゃなくモノまで集まるのが、タロアウトさんの愛され力ゆえ。
お気に入りを見せてもらったら、カラフルなホーローが大集合。
タロアウトさん:
「平皿は北欧ブランド “フィネル” のヴィンテージで、カレーを盛るのにもちょうど良いサイズ感。
なかなか見つからないので、他の色も探し中。
沖縄の古着屋さんで見つけたカップ&ソーサーは、なんと400円! 掘り出し物でした」
そして、タロアウトさんの料理に欠かせないレシピ本。
キッチンの棚の一つは、沢山の本がぎっしり占領。
ところどころに付箋の耳が出ていて、どれも使い込んでいる様子が見て取れます。
タロアウトさん:
「パラパラと見ながら、次の会はこんな集まりだからどういう料理にしようかなあと考えるんです。
事前に、イラスト付きの献立表を作ったりして。
時間配分も書いてプランを立てる、そんなひとときも楽しいんです。」
その準備時間は手間ではなく、誰かの笑顔を想像しながら、豊かな気持ちを持てる時間になっていて、ポジティブな循環が生まれる。
これこそが、おもてなしを継続できる秘訣なのかもしれません。
▲友人がくれた古いレシピ本、今人気の料理家さんなどジャンルもいろいろ。
「オーブン料理の本は何度作ったかわからないほど」
▲最近大好評だったレシピは、紫キャベツのコールスロー。
マヨネーズに加えて、
坂田阿希子さんの「覚えたい!
食を通じて環境にも優しく
タロアウトさんの料理への関心は自宅にとどまらず、菜園料理家の藤田承紀さんとのフード&デザインユニット「ラニーズベジー」として活動しています。
コンセプトは、「未来の笑顔をシェアする」。
タロアウトさん:
「アレルギーや宗教などのボーダーを超えて、みんなが一つの食卓を囲める料理の楽しさを広めて、いつのまにか環境のためにもなっている。
そんなことが出来ないかと2人で頭をひねりながら考えています」
ミツロウラップのワークショップも活動のひとつ。
タロアウトさん:
「ミツロウラップは、布にミツロウを染み込ませたラップで、ミツロウの抗菌作用や何度も使えるということで注目されています。
ワークショップでは、オーガニックコットン生地にスタンプをし、ミツロウを塗ってオリジナルの一枚に。
手作りすることで愛着も湧きますよね」
ピンと伸ばして、器にかぶせて、手で押さえるだけ。
タロアウトさん:
「マイボトルを広めるための水筒、おにぎりを包むための手ぬぐい、今着ているエプロンは柔道着をリサイクル。
可愛くデザインをすることで、“捨てるのもったいないね”って思ってもらえたら嬉しいですね。
僕なりに出来ることをコツコツとやっています」
体にも環境にも優しく。
目の前の人も、そして地球全体も、みんなが幸せになれる環境について考え、まっすぐに全力投球している、タロアウトさんの瞳はキラキラしていました。
4年前から環境省公認アドバイザーとして活動しているタロアウトさん。
「プラゴミが少しでも減って住みやすい世界になるといいなあ」
今後の「タロ・ア・ターブル」の展望
今後の活動を聞いてみると、「こども食堂がやりたいんです」と即答。
こども食堂は、子ども支援の一環として行われている活動で、地域住民や自治体が主体となって、子どもたちに食事を提供するコミュニティの場のこと。
▲奥のテラスには植え込みがあり、レモンの木や小さなハーブ菜園がある。
タロアウトさん:
「子どもを持つ友人が増えてきて、集まりもファミリー単位に変化してきました。
僕の周りは、母になっても社会で頑張って働いている女性ばかり。
子どもが放課後に寄れて、ご飯をみんなで食べて、親同士もコミュニケーションが取れる。
そんな安心感のある場所を作れたらいいですね」
自分の周りの環境に敏感で、みんながハッピーでいられるには?を模索しては行動に移すタロアウトさん。
その溢れる愛情に心を掴まれて、ここに一回でも訪れた人は常連になるのかもしれません。
子ども達が集う絵が見られるのもそう遠くないはず。
新しい家族のカタチは、ますます大きく発展していきそうです。
連載「わが家のキッチン、暮らしのかたち」をご覧いただきありがとうございました。
ぜひ皆様の声をお聞かせください。
たくさんのご意見をお待ちしております。
Text:Hitomi Takahashi