「理想の暮らしを叶える」ことを目的に、栃木県庁と共に「自分らしい地方移住」についての情報を発信している#DiscoverTochigi 企画。
今年のキーワードは、「ショートステイ」。
この連載記事では、「移住に興味はあるけれど、一歩が踏み出せない…」という方のために、その土地の人になった気分で短期滞在をする「栃木ショートステイプラン」をご提案しています。
第1回の宇都宮市、第2回の佐野市、第3回の益子町では、家族で引越し、単身でのUターン、新天地での開業……など、移り住んだ方それぞれの移住ストーリーをお聞きしました。
第4回のショートステイ先は日光市。
最終になる今回は、実際に4泊5日のショートステイ体験をしてもらった、滞在レポートをお届けします。
体験してくれたのは、ブランディングディレクターの行方ひさこさん。
行方ひさこさん
アパレル業界でデザイナー、ディレクターとして活躍。最近では、長年関心の深かった工芸、食、地方創生の分野にも手を広げ、自身が心惹かれる工芸や日用品を扱う企画展を行うなど、幅広い活躍をみせている。
プライベートでは、昨年末引っ越した都内の新居で愛猫2匹と暮らしている。
Instagram @hisakonamekata
行方さんには、NEXTWEEKENDではおなじみでもある、叶えたい野心“WISHLIST”を掲げてもらいました。
行方さん:
「2015年にNEXTWEEKENDの#DiscoverNikkoの企画で訪れたことがある日光市に、数日かけてじっくり滞在できる機会をもらえたのは嬉しいかぎり。自分なりの5つのテーマを持つことで、立ち止まって考えを巡らせながら、特別な時間を過ごせたような気がしています。」
WISHLIST1 「ものづくりの現場に訪れ、見学する」
ブランディングディレクターとして、そのものの「価値」を見つけて編集し、多くの人に発信してきた行方さん。
最初のWISHLIST「ものづくりの現場に訪れて、見学をする」は、全国各地の工芸品を現地で見て回り、“つくり手に会いに行くこと”を日頃から意識している行方さんのライフワークだそう。
実現するために向かったのは、日光彫のルーツを研究されている石川美弥子さんの元。
日光彫は、江戸時代初期に日光東照宮造営のために集められた名匠たちが、その高い技術を日常に落とし込んだとされる伝統工芸品と言われています。
行方さん:
「石川さんは、日光市地域おこし協力隊として活動していた経験を生かし、日光彫の研究をはじめて5年目だそうです。日光彫の作家としては経験が浅いかもしれませんが、自分なりに歴史を掘り下げて、“伝統工芸とは何か”を模索している姿勢に感銘を受けました。」
昔ながらの日光彫は、漆を何層にも塗った、照りのある重たい質感が特徴。
しかし、石川さんの作品は、あえて漆を塗らずに木の質感を生かすことで、どこか現代的で軽やかな表情に仕上がっています。
行方さん:
「伝統工芸といえど、その当時は革新的なものだったはず。リスペクトはしながらも昔のままの形ではなく、今の時代に合った模様、色や仕上げで、新しくなっていくのは当たり前のことだと思います。次に訪れた時に、彼女の新たな作品を拝見するのが、今から楽しみです。」
石川さんが手がけた作品に施された植物たちの、浮き立つような美しさ。
「こんなにも美しい日光彫を、こんなプロダクトに施して欲しい…という希望も、石川さんに伝えてきました。」と、職人と消費者の間に立つブランディングディレクターならではの湧き上がった発想力で、対話を楽しんだ行方さん。
日光彫の可能性と未来を、今後も見つめていきたい気持ちになったのにもうなずけます。
職人技術に魅了された行方さんは、ギャラリーなかむらで昔ながらの日光彫の工芸品にも触れて、その魅力を存分に吸収できた様子。
WISHLIST2 「土地の歴史的背景を学ぶ」
世界的にも有名な観光地・日光市。
前述の日光彫作家の石川さんから見せてもらったのは、明治時代の日光表参道の資料。
商店の名前の並びを見ながら「どんな暮らしをしていたのかな」と気持ちをタイムスリップさせて、思いを馳せました。
行方さん:
「そのあとは、石川さんにナビゲートしていただき日光金谷ホテルへ。数年前に訪れたことがあるものの、今回はその歴史ある館内を細部まで観察してまわりました。館内には日光彫の装飾がいくつも見られ、歴史に触れることができました。」
明治時代に建設され、“日本最古のクラシックホテル”といわれる日光金谷ホテル。
中世ヨーロッパの仕様に、和のテイストを盛り込んだ建造物には、建設当時の面影が色濃く残っています。
また、世界遺産に登録されている日光東照宮が、ショートステイ中に夜間ライトアップ(11月初旬)されている、との情報をキャッチ。
荘厳な建造物や美しい紅葉が浮かび上がり、昼間とは異なる幻想的な世界の中に、静かに佇む体験をしました。
また、日光田母沢御用邸記念公園では、大正天皇・貞明皇后が日常生活で食事をされた「御食堂」が特別公開されていたので、滞在最終日に来訪。
行方さん:
「存分に知れた、とまでは言えないですが、WISHLISTに掲げた『土地の歴史的背景を学ぶ』の入り口くらいには触れられたかなと思います。」
WISHLIST3 「自然の中で、今までしたことがない体験をする」
広大な国立公園がある日光市。
山岳、湖沼、滝や湿原が織りなす自然美に魅せられた、アウトドア好きが集まるエリアでもあります。
3つ目のWISHLIST「自然の中で、今までしたことがない体験をする」日は、早起きをして、日光でアウトドアガイド&ショップを経営しているAmetsuchiの星野由香理さんと待ち合わせ。
行方さん:
「日光駅からほど近い霧降エリアを2時間ほどトレッキングしながら、4つの滝を巡りました。連れて行ってくださった由香理さんは、中学生の時から滝に魅せられてしまったという、根っからの滝好き。点在する滝の名所に向かう道中も心地よく、そして、自然の壮大さを実感。冬季には、凍った滝を登るアクティビティもあるとか! 滝が凍るなんて想像したことなかったので、それを自分の目で確かめにまた訪れたいです。」
他にも、春は中禅寺湖でフィッシング、夏はトレイルランニング、秋は紅葉の中のハイキング、冬はスノーシュートレッキングなど、四季の移ろいを感じられるアクティビティが楽しめるのは、日光の大自然があってこそ。
行方さん:
「特に、川、湖、滝、温泉などの多彩な水資源に恵まれている土地。水辺の美しい景観と水にまつわる生活文化、守り伝えていきたい大切な風景を改めて感じる時間になりました。」
別の日には、英国大使館別荘記念公園を訪れ、絵に描いたような中禅寺湖畔の美しい景色を堪能。
また別の日には、紅葉が見える半露天の温泉に浸かって(綿半の一口塩羊羹を食べながら、というのが行方さん流の入浴の楽しみ方!)、豊富な水の恩恵をたっぷりと味わいました。」
WIshlist4「現地の食材を掘り下げて、料理をしたい」
4つ目のWISHLIST「現地の食材を掘り下げて、料理をしたい」を叶えるために訪れたのは、日光市栗山地域。
奥鬼怒温泉郷や湯西川温泉などの秘湯がある山間部で、昔ながらの伝統や文化が色濃く残っている地域です。
ここで、地元の方々と日光市の伝統野菜「川俣菜」を収穫し、栗山行政センター内で昼食づくりをした行方さん。
今回作ったメニューは、川俣菜と鹿肉を煮た伝統食「干葉汁(ひばじる)」、「川俣菜のお焼き」「川俣菜のお浸し」「川俣菜とツナのパスタ」「川俣菜のマフィン」という川俣菜尽くし。
行方さん:
「川俣菜は、標高千メートルを超える高冷地で昔から育てられているカブ菜。伝統野菜は品種改良せずに伝承されているので、ワイルドな味がするものも多いですが川俣菜は私好みの味でした。そして、この体験で一番印象的だったのが、日光市栗山地域をメインに活動されている地域おこし協力隊の林千緒(ちお)さんにお会いしたこと。田舎暮らしをこんなにも心から楽しんでいる人がいるんだ! と、私まで嬉しくなるほど、伝統民芸の継承、伝統野菜の存続のために体を張って頑張っていらっしゃいます。“赤じゃがいも”という伝統野菜もあるとお聞きしたので、そちらも食べてみたい。モチモチとした食感で、すりつぶしてお餅のようにして食べるそう。まちおこし目的で、商品を作ってみたいですね。」
帰京前には、日光だいや川公園の敷地内にある直販所「旬菜館」で、地場産の食材をたっぷりと買い込んだけれど、やっぱり気になるのは、伝統野菜の存続について。
行方さん:
「私にも何かできることはないかなと思い、最初の一歩として、川俣菜の種をいただいて帰ってきたので、自宅で栽培する予定。川俣菜は野沢菜に風味が似ているので、育ったらお漬物にすると美味しそう! 友人たちにもおすそ分けしたいと思います。」
WISHLIST5「またすぐに訪れたくなるような繋がりを持つ」
ここまでの4つのWISHLISTで出会った、日光彫を研究している石川さん、アウトドアガイドの星野さん、地域おこし協力隊の林さん…三者三様ですが、どなたにも共通していたのが、日光愛に溢れ、地元の可能性を模索する誠実さを持っていたこと。
そんな彼女たちと一緒に過ごしたことで、「ゆかりのない土地が、人との出会いによって、少しずつ自分ごとに変わっていく。“ここに何度も来たい”と思わせてもらえたことが、一番の収穫でした。」と語る行方さん。
ということで、最後のWISHLIST「またすぐに訪れたくなるような繋がりを持つ」は、4つのWISHLISTを叶えた時点で達成。
東京に戻ってからも、SNSでやり取りを重ねたり、友人たちに「地域おこし協力隊に面白い方がいてね…」なんて話したりしているほど、印象的な出会いになったようです。
おいしいものや美しい景色は旅でも見つけられますが、人との出会いを通じて広がった価値観は、「ここに住みたい」の大きな理由になる。
ショートステイから移住へと進むための、ヒントにもなりました。
4泊5日の充実したショートステイを終えて、滞在前と滞在後で心境の変化はあったのでしょうか。
行方さん:
「人との出会いを軸として、知らなかった新しい世界に足を踏み入れることができました。出会いを繋がりとして育てていくことが、自分の人生をより豊かにしてくれると思っています。さまざまな環境でなにかに打ち込んでいる人と出会えることこそ、刺激的で勉強になることはないと感じています。豊かな自然と水に恵まれた日光は、心も身体もクリアになる巡りの良い場所。自然と戯れるアクティビティはもちろん、ワーケーションにもピッタリです。また、季節を変えて必ず訪れたいです。」
全4回に渡る「栃木ショートステイのすすめ」連載記事、いかがでしたでしょうか。
ご紹介したプランはあくまで一例。
そのまま実行しても良し、自分なりのWISHLISTを掲げて、自由にプランを組み立ててもOKです。
頭の中だけで考えるのではなく、体験として自然と“自分が暮らしに求めているもの”を実感する、それがショートステイの目的。
いろんなエリアで試して比べてもいいし、同じ場所へ何度訪れてもいい。
あなたにとっての理想の暮らしが見つかりますように。
行方さんのショートステイプランニングシートはこちらより
行方さんのライブ配信アーカイブはこちらより
この記事は、NEXTWEEKENDと栃木県とのコラボレーションで制作しています。
Text:Hitomi Takahashi
Design : MOGAMI studio
Editor:Saki Goda