NEXT WEEKEND DATE

昔、就職活動があまりにうまくいかなくて、自信も未来への希望も打ち砕かれていた時のこと。

それでも毎日はやってくるもので、心がものすごく乱れたままにインターン先の会社でひとり大きな会議室の机を拭いていたら、突然身体の奥底から込み上げてきた感情とともに大量の涙がこぼれ落ちそうになった。

その瞬間、私は何を思ったか当時まだガラケーだった携帯を机の上に立てて、一人でマイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』という映画のジャケットと同じポーズをして写真を撮った。

ただでさえ高い六本木のビルの最上階からは、どんな建物も小さく見えて、青空はどこまでも広がっていて、逆光のおかげで私の身体の輪郭はうっすらと消えて、なんだか本当にマイケルジャクソンなのかと思うほど(大変失礼)自分もシュッとして見えて、突然すべてが面白くなってしまった、という出来事があった。

そのことをふと思い出したのは、つい先日、基本的にワンオペで3人の子どもを育てている友達の話を聞いたから。

彼女はいつも綺麗で、やる気に満ち溢れて、それでいて落ち着いているように見えるけど、話を聞いてみると、子どもたちを寝かしつけた後にお風呂を真っ暗にして、湯船に浸かりながら蓋を半分閉めて、その上で映画を観ながらビールを開けて焼きそばを食べてみるという、通称 “コックピットごっこ”で 自分を保っている時があるのだそう。

分かる。ものすごくよく分かる。

ツッコミどころのある自分こそ愛しくて、茶番で、とにかく気が楽になる。

普段気を張っている人ほど、誰がツッコんでくれるわけでなくとも、ボケる時間が必要だと思う。

おしゃれなカフェの窓際でミルクティーを飲みながら文庫を読むのだってもちろんいいかもしれない。

きっと素敵。

でも、一人ボケできるユーモアこそ心の余白なのでは…、なんて本気で思っている。

ちなみに「THIS IS IT」のポーズをした、自称とにかく格好いい私の写真は、当時から付き合っていた今の夫宛に送っていたようなのだけど、このコラムを書くにあたって捜索はしなかった。

あの時の自分が面白かったなら、それでいい。

きっとこのままもう一生誰にも見られることなく、心の中の愛すべき茶番劇として生き続けることでしょう…。

NEXTWEEKENDが今月掲げている月間テーマは、
「小さな余白がくれるもの」 #作りたかった時間

こんなコンセプトとともに2022年の11月を過ごしたいと思います。

それぞれにとって良い11月になりますように!

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