いろいろな家庭のだんらんのかたちを、住まいや暮らしの工夫から読み解く連載「家族がつながる、だんらんの部屋づくり」。
今回おじゃましたのは、作家ものの器やインテリア雑貨など、愛用品を集めたオンラインセレクトショップ「sui.」を営むのりまいさんのご自宅。
のりまいさんがインスタグラムなどのSNSで発信している美しいインテリアや暮らしは、多くの人の支持を集めています。
都内の1LDKの賃貸マンションで夫の優太さん、愛犬のてんちゃんと暮らすのりまいさんに、ライフスタイルに寄り添った住まいのつくり方をお聞きしました。
在宅ワークをしているのりまいさんと優太さんの朝は、少しゆっくりめ。
午前9時30分、先に優太さんが、少し遅れてのりまいさんが起床。
リビングのソファでひとしきりてんちゃんと遊んだのち、ふたりでコーヒーとスムージーの準備。
のりまいさんがハンドドリップでいれるコーヒーの香りが、部屋中に満ちていきます。
シックなダイニングテーブルに向かい合って座るふたり。
「今日は何時頃てんの散歩に行く?」
「夕方に打ち合わせがあるから13:00くらいに出発できたらうれしいかな」
「了解! そろそろあの公園の桜が咲いていそうだから行きたいな〜」
「お、いいね。じゃあ今日は公園を通る長めのルートにしようか」
ふたりのおしゃべりは、いつしかSNSで話題の内容に変わり、さらには仕事について意見を交わす場面も。
たっぷり1時間ほど話してから、それぞれ仕事の時間へとスイッチを切り替えます。
愛犬との暮らしが、住まいを変えるきっかけに
のりまいさんと優太さんが現在の住まいに引っ越したのは、2020年の5月。
「私も彼も、頻繁に帰省してそれぞれの実家の愛犬に会っていたんですが、コロナ禍で難しくなって。そろそろ自分たちも家族に迎えようかと、ペット可の物件を探し始めたんです」
そうして物件を回っているときに、運命の出会いがありました。
不動産屋さんの元に古い情報しかなく期待せずに訪れた、やや築古のマンション。
ところが部屋に入ってみると、すでにリノベーション済みの状態だったのです。
広々としたLDKに、機能的なアイランドキッチン、自然光がたっぷり入る大きな窓、無垢材の床。
収納も十分あり、まさにのりまいさんの理想どおりの物件でした。
▲清潔感のある白いアイランドキッチンは開放感満点! ふうふふたりで同時に作業しても窮屈さを感じません。右手の白い扉の中は収納力抜群のパントリー。
▲日当たりのよさもこの物件の魅力。のりまいさんは室内で撮影することも多いので、光がきれいに入るのは大切なポイント。
「夫は最新設備つきで外観がきれいな別のマンションを気に入っていて『7:3であっちの物件がいい』と言われたんですが、私は『10:0でこっちがいい』と譲らなくて(笑)」
「10:0ならもう決まりじゃん(笑)。それじゃあ僕が納得できるように説得して」と優太さんに言われたのりまいさん。
「実際に私たちが長く時間を過ごすのは部屋の中だし、お客さんが来ても家に上がってもらったらこの家のよさは伝わるはず、この家ならいい写真も撮れるから仕事もより頑張れる、などと熱くプレゼンしたらOKしてくれました」
こうしてのりまいさんと優太さん、そして満を持してお迎えした愛犬のてんちゃんとの新しい暮らしがスタートしました。
言語化をサボらないから、理解しあえる
物件選びのエピソードからも伺えるとおり、何事もしっかり話し合いをして考えを共有するのは、のりまいさんと優太さんにとって日常のこと。
「朝のコーヒータイムでも、ほっこりした会話というよりは、お互いの考えを共有することが多いかもしれません。家族や共通の友人にまつわる話、仕事の話、SNSで話題の件…etc. 自分はどう考えたとか、どう感じたとか、そういうことをシェアして、相手の意見も聞いて。ときには少しシリアスなディスカッションをすることもあります」
▲ふたりの関係を「お互いストレスなく考えや意見を楽しく共有できる稀有な存在だと思う」と分析するのりまいさん。とにかくお互いと会話することが楽しくて、時には布団に入ってからも話し続け、いつの間にか朝、ということも。
「価値観自体は違うことも多いんです。でも、ふだんから自分の考えや気持ちを共有しているから、『これはこう感じるだろうな』とか『こうされたらうれしいだろうな』とか、相手の価値観や考え方を的確に把握できているような気がします」
「言語化をサボらないほうが、ラクになるんです」と笑うのりまいさん。
「お互いに、ときには気分のすぐれない日もありますが、そういうときは『あまり心の余裕がなくて話す気分じゃないから放っておいて』と伝えたり、逆に『とにかくただ話を聞いてほしい』と伝えたり。“どうしてほしい”まで具体的に言っておけば、『なんで察してくれないの?』みたいな無駄な不満や衝突も起きません。いつも話しているからこそ、ここまで言って大丈夫、という信頼貯金ができているのかもしれませんね」
自然にコミュニケーションが生まれる住まい
1日のほとんどをLDKで過ごすのりまいさんと優太さん。
朝のコーヒータイムが終わるとそれぞれ仕事を始めますが、どこにいてもお互いの気配を感じて会話ができるように、大きなひとつの空間をつくることを意識して家具を配置したそう。
「よく、リビングのソファの背をダイニング側に向けてスペースを区切ったりしますが、我が家はあえてそうしないで、LDKの境界線を曖昧にしました。もともとアイランドキッチンでオープンな間取りだったこともありますが、ふたりとも別の場所でバラバラなことをしていても、一緒の時間を過ごしている実感があります」
▲気分転換にコーヒーをいれに来たタイミングで、優太さんと少しおしゃべり。「独立型のキッチンでは、作業する側が引きこもることになりがちですよね。オープンキッチンだと会話しながら作業できるので、心地よいです」
相手のペースも、自分のペースも大切にする
ふたりが目線を合わせることと同じく大切にしているのが、ほどよく距離を置くこと。
「ふたりとも家にいる時間が長いぶん、何をするにも一緒だと疲れてしまうこともあると思うんですよね」
仕事中は「今、話しかけていい?」と一声かけるのが暗黙のルール。
昼ごはんや夜ごはんのタイミングも無理に合わせることはないと言います。
「どちらか気が向いたら料理して、『これから◯◯をつくるけど食べる?』などと声をかけたりしますが、相手が仕事を中断する気分でなければ、ひとりで。一緒に何かするのを強制せず、お互い別々であることを前提にしています」
▲リビングの奥の壁側に設置したのりまいさんのワークスペース。壁に向かって作業し、視界をクローズにすることで、自然に集中モードに切り替えられます。
▲主にダイニングテーブルで仕事をしている優太さん。「私のワークスペースは見えない位置なので、お互いに集中を邪魔せずに進められます」
個々のペースを守るために、負担そのものを減らす
「お互いの邪魔をしない」。
その姿勢はふたりの家事分担の考え方にも表れています。
「一般的に、結婚すると女性が料理を担当することが多いですが、夫は私にそう考えてほしくない、それより楽しんで仕事をしてくれるほうがうれしい、と思っているようで」
だから、毎日発生するお皿洗いやお風呂掃除だけ分担を決めて、それ以外は時間に余裕があるほうがする、ということにしているのだとか。
「結果的に半々くらいの分担になっている気がします。料理はどちらも適当にはつくりますが、ふたりとも忙しいときはデリバリーを頼むとか、お互いストレスや不満がたまらないことを優先しながら臨機応変にやっています」
料理以外にも、手間を減らせることはなるべく導入。
「ロボット掃除機や食洗機、ネットスーパーなども利用したり。家事にかける時間や家事にまつわるストレスが最低限になるようなしくみを積極的に取り入れています」
▲てんちゃんのお散歩にでかけるタイミングで、ロボット掃除機のスイッチをオン。あとはおまかせ!
暮らしを心地よくする、インテリアの工夫
心地よく過ごすためのポイントは、さらにインテリアのすみずみにまで及びます。
「在宅時間が長いからこそ、落ち着ける空間というのを第一にこだわりました」と言うのりまいさんに、あらためて、おうちの中を案内していただきました。
間取りや造りが気に入っていたこともあり、引っ越したときに新たに改装はしなかったものの、インテリアは自分の好みとすり合わせながら整えていったそう。
「もともとキッチンも飾り棚も真っ白で、北欧系のインテリアと相性がよさそうな内装だったんです。でも、自分の好みとはちょっと違うかな? と思ったので、アンティークのチェアやキャビネットを置いたり、照明を変えたりしてバランスを取りました」
あらたにインテリアを加えるうえで優先したのは、色の統一感だと言います。
「キッチンは白とシルバー、リビング・ダイニングはグレーとアンティークブラウン…といったようにメインとなる色を決めておくと、インテリアのブランドや素材が違っていても、バラバラに感じません」
▲ダイニングに置いたアンティークのキャビネット。あせたブラウンの色味が落ち着いた印象をもたらしてくれます。上に飾る草花や左上のボードで季節感を演出。
▲ワークスペース側の壁だけ、自分で剥がせるダークグレーの壁紙を貼って印象をシックにチェンジ。壁紙は楽天市場の「壁紙屋本舗」でサンプルを送ってもらってセレクト。
▲ワークスペースのデスクも引き出しもアンティーク。家具の色味や「アンティーク」という共通性を持たせたことで、ダイニングやリビングとも一体感が。
「インテリアに詳しそうと言われるんですが、実際はそうでもないんです」と笑うのりまいさん。
「情報や知識をもとに決めることはなくて。旅先や、お店やカフェなどから受けたインスピレーションとか、これまでの生活の中で自然に積み重ねてきた感性の引き出しがあって、そのセンサーに触れたものを選ぶことが多いです」
そうやって自身の感覚を大切にしながら選んだ結果、“〜テイスト”といった既存のジャンルを超えた、のりまいさん独自の世界観が感じられる住まいに。
▲「引っ越しの際に、イギリスの老舗家具メーカー・アーコール社のアンティークチェアを形や色違いで揃えました。これに木のテーブルを合わせるとほっこりしすぎると思って、モールテックスという左官塗材を施したダイニングテーブルを『コンクリカグTokyo』さんでオーダーしました。サイズはもちろん、天板の色や厚み、脚の素材やデザインなど細部まで理想どおりにできました」
のりまいさんのインテリア選びの基準のひとつは、「ずっと愛せるか」ということ。
「実家では両親が結婚したときに100均で買ったカトラリーをいまだに使ったりしていて、買い換えるタイミングって案外ないものだな、と実感したんです。どうせ揃えるなら、最初から一生使いたいと思えるものを買ったほうが、ゴミも出ないし、無駄に買わなくてすむからお得でもあるのかな、と思っています」
デザインと、暮らしやすさを両立させる
そしてもうひとつ、のりまいさんが重視しているのが、使い勝手。
「実は私は“効率厨”で(笑)、無駄が嫌い。だから暮らしやすい、片づけやすいなどといった生活動線にもこだわっています」
そのこだわりは、家具のディテールにまで。
「たとえば引き出しが深すぎるとモノが迷子になってしまうので、浅くて段数の多いタイプを選んだり。家具を探すときは、実用性と見た目のバランスを意識しています」
▲玄関に置かれたアンティークのチェスト。「我が家はネットショップを利用することが多く、玄関にカッターやはさみを置いておきたいという理由から、ちょうどいい引き出しを探しました。玄関をおしゃれにしたかったというわけではないんです(笑)」
▲リビングにさりげなく置かれた、てんちゃん関連のグッズを収納する棚。既製品でイメージどおりのものが見つからなかったので、ハンドメイド通販アプリの「Creema」を通じて家具作家さんにオーダー。
▲モノはなるべく見えないように収納したいと言うのりまいさん。「パントリー内にコンセントが備えつけられていたので、電子レンジやミキサーなどの調理家電も収納し、そのままここで使用しています。だからキッチンはすっきりした状態を保てます」
意外にも、家具はネットで買うことが多いのだとか。
アンティーク家具はほとんどがオークションサイトで購入。
地方のアンティークショップのサイトもよく覗くそう。
「実店舗だとうちと広さが違うので、サイズ感がつかみにくいこともあって、置く場所やサイズ、素材、使い方といったイメージを自分の中でしっかり固めてからネットで探すほうが好きです。探し始めると眠れなくなるくらい没頭するので、夫からは心配されますが(笑)」
Point!
おうちの中の景色がさらに好きになる、インテリアの小さな工夫
「お気に入りの器やお花は暮らしや心の豊かさに直結します」と言うのりまいさん。
暮らしを彩ってくれる小さなインテリアの楽しみ方も教えていただきました。
1.器使いはゆるやかに変化をつけて
共通性は持たせつつも、きっちり揃えすぎない。そのバランスが器使いのコツ。
「家族で使う器やカップは同じものを揃えがちですが、色違いにすると変化がゆるくつけられます。逆に食卓にまとまりがないと感じるなら、なるべく同じサイズで揃えると、違う作家さんの器を使ってもテーブルにほどよい統一感が出ます」
▲繊細な模様が魅力的な角井理愛さんのカップは、色違いで使用。気分によって使い分けたり、ふうふでどちらの色がお気に入りか決めたりしているそう。
▲(左上から時計回りに)福島晋平さんの「しのぎのリム皿」、高木浩二さんの「彩泥リム皿」、co+feさんの「花リムプレート」、KODAMA TOKIさんの「FOR SUCH A TIME ラウンド」。作家さんが違っていても、サイズやスモーキーな色合い、マットな質感は共通。2.シンプルな花器で花本来の彩りを楽しむ
家にいながらにして季節を感じるために、グリーンやお花は欠かせない存在。
「季節や気分によって飾りたいものの雰囲気や色合いが変わると思うので、花器自体は白や黒、透明なガラス素材など、ベーシックな色のものを揃えるようにしています」
▲「華やかな花器に惹かれたりもするのですが、実際に飾るときはさらにお花の色が加わりますよね。花器もお花も、飾っている場面を具体的にイメージしながら選ぶようにしています」3.家族の記念写真をインテリアの一部に
ダイニングの飾り棚には、さりげなく結婚式のフォトアルバムが。
「部屋に飾っても浮かず、小っ恥ずかしくもならないデザインでアルバムをつくりたくて、ケーキカットの手元の写真を表紙にしました。目につくところに置いておくと、ふとした折にふうふで見返せます」
▲上段左に飾られている夫婦+てんちゃんのイラストは、インテリアになじみそうなタッチのマリワさんにオーダーして描いてもらったもの。これも家族の大切な記念。
おうちも家族としての信頼も、ともに過ごしながら築く
「こういう家に住みたいという理想があったというより、『これは違う』『これが心地いい』という自分の感覚に耳を傾けていたら、今のおうちになったという感じなんです」と語るのりまいさん。
「おうちでどんなふうに過ごしたい?」
「家族とどうコミュニケーションをとっていきたい?」
ひとつひとつイメージしながら編み出したルールを細部まで徹底したからこそ、ただ美しいだけでなく、暮らしにしっくりと寄り添う住まいになったのだと感じます。
それはふうふのありかたにも言えること。
ずっと一緒にいるけれど、それぞれの自由も大切にするスタイルは、ふたりが自分たちらしく、心地よく過ごすために行き着いたもの。
そしてだんらんの時間は、ふたりが考えを共有し、理解しあうためのベースとなっているようです。
最後にのりまいさんの言葉をメモします。
「同じ空間で同じものを食べたり飲んだり、他愛のない話をしたりしながら、無言でさえも心地いい関係を築く。こういっただんらんの時間の積み重ねによって愛や信頼、絆を積み上げていき、もともとは血のつながっていない他人同士が家族になっていくのかな、と思います」
Writer:野田りえ
Photo:のりまいさん
Editor:Tomomi Watanabe