まもなく6歳になる娘のお腹の中には、小さな世界が広がっている。
その世界に住む主人公は小さな玉ねぎで、確か去年の今頃にBBQか何かで食べて以来、毎日お腹に向けて話しかけるくらいには親密な関係が続いている。
玉ねぎは、アスパラとズッキーニに憧れていて、小さなアサリたちの面倒を見ていて、そしてカリフラワーに恋をしている。
なんなら、この世界にやってきた当初の玉ねぎはものすごく悪いやつで、お腹の中をバイクで走り回ったりなんかしていたのに、様々な食材との出会いやコンプレックスの克服を経て、今は世界の平和を担う重要人物になっているという、共感せざるを得ないストーリーまでできあがっている。(大体の食べ物は、体内を巡って外に出ていくことになっているものの、娘のお腹の中での生活が気に入った者だけがそこに残り、住み着くという設定になっている)
娘が魚を沢山食べたりすると、お腹の中にある海や川は大賑わいで、住民たちは大喜びするし、反対に砂糖の入った甘いお菓子を食べると、嵐が吹き荒れて玉ねぎたちは離島に流れついてしまったりもする。
彼女は玉ねぎとその周辺の仲間たちの楽しい人生を守ることに必死なので、基本的には栄養のあるものを選んだり、驚かせたくて珍しい食材を率先して食べたりする。
おかげで、「〜を食べなさい!」なんてことを言う機会も減った。
ちなみに、話しかけられた時に玉ねぎ役を演じながら会話しているのは母である私で、娘はもちろんそれも分かっているのだけれど、どこかで玉ねぎという存在は確実に存在していて、母はその声を翻訳しているだけだと思っている節がある。
とはいえ私自身も、なるべくその設定を大切にしたいという思いがあるので、娘から飛行機の機内で「ねぇ、玉ねぎ、さっき飲んだジュースのことだけど〜」なんて話しかけられたりすると、隣の席の人からは「このお母さんはどうして自分のことを玉ねぎと呼ばせているんだろう」なんて顔で見られたりもするけど、そんなのはへっちゃらなくらい、この物語が始まって本当に良かったと思っている。
“7歳までは夢の中”といった考え方もあるけれど、幼少期特有の、現実と空想が地続きである期間に描いた世界や、そこで感じた気持ちは、その後いやがおうでも現実を歩き始める私たちにとって、間違いなく心の故郷のような存在になると思う。
そしてそんな空想の世界が自分にもあったはずなのに、本当に夢から目覚めたみたいにほとんどのことを忘れてしまって、時折、断片的に思い出す程度。
娘は私のその話を聞いて、いつか玉ねぎが自分のせいでいなくなってしまうことをものすごく恐れているし、心配している。
だから将来の自分に宛てて、手紙も書いていた。
こんなことまでして必死に覚えておこうとしても、いずれ彼女は、他に夢中になることと必ず出会う。
好きな人ができたり悩んだり、そんなことをしているうちに、きっと玉ねぎもその世界も存在が消えてしまうかもしれない。
だけど彼女が好奇心とともに空想をしながら、たまに母性まで発揮しつつ大切に作ってきたこの小さな世界が、いつか断片的にでも、現実を生きる彼女のお守りのような存在になったらいいなと願っている。
8月にNEXTWEEKENDが掲げている月間テーマは「ムードに身を任せて」
SNSで楽しむハッシュタグは #好奇心のままに 。
誰にどう見られて、どう説明するか。
大人になると、特に仕事をしたりする上では、それはどうしても避けては通れないことではあるけれど、小さな頃に空想したように、自分が楽しければそれでいい、説明の要らない時間を、少しでも楽しめる8月になりますように!
ほんと、びっくりするくらい暑いけど…、みなさん良い1ヶ月をお過ごしください。