「日本ワイン」と聞いて、どんなワインを思い浮かべますか?
今、風土と造り手のこだわりが光るメイド・イン・ジャパンのワインは、世界のワイン愛好者からも年々注目される存在になっています。
しかし、「海外ワインとどんな風に違うの…?」「詳しく知らないから今まで飲む機会がなかった」という人も少なくないはず。
そんななか、日本ワインの産地である茨城県牛久市、山梨県甲州市の二つの地が「日本遺産」に選定されたことをきっかけに、NEXTWEEKEND編集部が一泊二日で巡るツアーに参加することに…!
知っているようで知らない「日本ワイン」と土地の関係を肌で感じることができる、願ってもないチャンス。
「ワインは大好きなのに、詳しい知識は持ち合わせていなくて」というメンバーが、それぞれの視点でレポートします!
日本遺産とは?
地域の歴史的魅力や特色を通じて日本の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産」として文化庁が認定するもの。
参加メンバーはこのふたり
NEXTWEEKENDでコミュニティーマネージャー兼総務を務める30歳。
“ひとり〇〇”をするのが好きで、今年の目標は「ひとりでも気軽に通える行きつけのバーに出会うこと」。
(@ikumi_808_)
「好きなお酒はジャンル問わずですが、特に最近興味があるワインを求め、気になるビストロをInstagramで見つけてはリスト化するのが日課です。
自分の言葉で語るほどワインの知識がなく、購入するワインは、エチケット(ワインのラベル)の可愛さで選ぶことがほとんど…。
“もっと知識を身につけて味わえたら楽しみの幅が広がるはず…”と思っていたところにこの企画! 日本ワインの魅力をしっかりと探っていきたいです。」
「NEXTWEEKENDを一緒に作る、47都道府県の日常編集者」こと、Weekender編集部のメンバー。
根っからの食いしん坊な26歳。
IT企業で働きながら、雑誌やwebのグルメライター&カメラマンとしての顔も持つ。
(@chiharuk_)
「趣味は映画鑑賞と旅行。
ですが、遠くに行けない今は、ワイン片手におうちのプロジェクターで映画鑑賞、非日常感を味わうために都内ホテルで月一のワーケーションにハマっています。
ワインはお酒の中で一番好き!
最近ふるさと納税でワインを購入するようになり、日本産のワインの魅力を発見したところ。
今回ワイナリーに実際に足を運ぶことで、より日本ワインへの愛を深めたいと思っています。」
ふたりが掲げたWISHLIST
今回のツアーへ参加するにあたって、ふたりが掲げたWISHLISTがこちら。
一泊二日の間に、無事に叶えることができるでしょうか…!
茨城県牛久市で、
歴史とストーリーを知る
1日目は「日本遺産」に登録されたうちの一つ、茨城県牛久市へ。
この地に初めて訪れたふたりは、市のシンボルにもなっている「牛久大仏」にご挨拶。
世界最大120mの大きさ(なんと、手のひらに奈良の大仏が乗ってしまう!)で、大仏内のエレベーターで展望台に登ることができ、天候によってはスカイツリーや富士山が見えることも!
もちろんふたりも登ってみることに。
ちはる:
「この日は、何年かに一度の大雪の後(1月初旬)でした。
大仏さまの視点から見下ろした街は、息をのむほど美しい雪景色!
時が経つにつれて少しずつ青みがかっていく青銅製の大仏様は、牛久市のワインの歴史も見てきたのだろうか…などと、思いを馳せることができました。」
次に向かったのは、国の重要文化財にも指定されている「牛久シャトー」。
牛久シャトーは、日本最初のバー「神谷バー」の創業者でもある神谷傳兵衛が創設したワイン醸造場。
ワイン生産当時の貴重な建物を見学しながら、牛久ワイン誕生の経緯を知ることができる場所です。
ちはる:
「印象に残ったのは、日本初の本格的ワイン発売のエピソード。
当初はワイン(海外より輸入したもの)が売れなかったため、ハチミツや漢方薬を混ぜて甘く飲みやすくし、滋養効果を売りにして販売したところ大人気になったとか!
それは、創設者の神谷傳兵衛さんのアイデアによるもの。
『実業家としての発想の転換は、現代に生きる私たちにも学ぶところがあります』と、先人のものづくりへの情熱とセンスに感心しきり。」
この甘味ワインを「日本国内で醸造し、一大産業にしたい」という傳兵衛の夢を実現するために牛久シャトーを作り、民間の力でワイン醸造を成し遂げたストーリーを知って、日本ワインへの興味がますます高まったふたりでした。
山梨県甲州市で、
味わいや関わる人の奥深さを知る
2日目は、もう一つの「日本遺産」の地、山梨県甲州市へ移動し、さらにワインにどっぷり浸るプラン。
江戸時代からブドウの産地として知られていた山梨県は、ワイン醸造の先駆け的存在。
特に勝沼エリアは、ワインに詳しい人でなくても知っているワインの名産地になっています。
最初に訪れたのは、日本のワイン醸造のルーツが学べる資料館「宮光園」。
ここの元となった醸造場を創業したのは、甲州ワインの生みの親・宮崎光太郎という人物で、地元のブドウ農家との共存繁栄を図り、勝沼を一大ワイン産地へと押し上げたキーパーソン。
その歩みを35mmフィルムの映像でみた後、お隣にある「シャトー・メルシャン ワイン資料館」をはしご見学し、日本ワインの歴史についての知識を深めることができました。
ちはる:
「ずっと受け継がれてきたヨーロッパの栽培法から、“風土を生かした日本ならではの個性を打ち出したワインを作ろう”という動きになったのは、ほんの今から25年前ほど前。
甲州ぶどう特有の柑橘系の香りを発見し、試行錯誤しながら独自の製法で作られ始めたワインは、今では世界でも認められるまでに!
そんな日本ワインが尊く感じられました。」
先人たちの造り方と現在では製法は違えど、共通するのは“日本ワイン全体が、世界中の人たちに愛されるように…”という想い。
それを知らなくてもワインを飲めるけれど、知っていると何倍にも味わい深くなるし、その土地の景色まで変わって見える気がします。
他国とは異なるぶどうの品種を扱うからこそ、ぶどうの個性を見て、世界のスタイルを参考にしながらも最適な造り方を見出している日本ワイン。
それを体感できるテイスティングは、ふたりが最も楽しみにしていたハイライト!
南アルプス・甲府盆地のぶどう畑を一望できる「甲州市勝沼ぶどうの丘」は、勝沼町のランドマーク的存在。
ワイン作り140年の歴史を誇る、芳醇なワインを備えたワインカーヴ(貯蔵庫)は、日本一の壮大さ! 地元ワイナリーの約180銘柄が一堂に会し、どれでも自由に試飲ができる、ワイン好きにはたまらない空間になっています。
このときを待ってましたとばかりに大興奮…!
いくみ:
「まさに、私の野心を叶えるのにぴったりな場所でした!
ここで発見したのは、日本ワインの味わいの幅の広さ。
“日本ワイン=甘口”という印象が強かったのですが、甘口から中辛口そして辛口、しかも辛口ひとつとっても瓶によって全く異なる味わいで、できることなら180種類全て試したい…! と欲が出てしまうほどでした。」
ついに、ひとつ目のWISHLIST「テイスティングで、日本ワインの奥深さを感じたい」をここで達成。
ワイン選びのノウハウを知りたい、と思っていたちはるは、ここで意外な気づきを得た様子。
ちはる:
「地下のワインカーヴでは、ソムリエ気分になってお気に入りのワインを探せるとあって、意気込み十分でテイスティングを満喫しました。
驚いたのは、パッケージのデザインで選んでみると、味わいも自分好みだったこと。
それまでは、見た目で選ぶなんて浅はかでは…?!と思っていたので、これも選び方のひとつ! と気づけたのは、嬉しい体験でした。」
そして、テイスティングをしたふたりが揃って口にしたのは、「自分の好みをより詳細に把握できたことが一番の収穫!」だそう。
「特に好みだったのは、中辛口くらいの、わずかに甘みとコクのある白」と語るいくみに対して、「辛口の中でも果実味が濃く、余韻がすっきりとした白が好き」と、ちはる。
それぞれWISHLISTを叶えたふたりは、これからのワイン選びがますます楽しくなりそうな予感を胸に、次なる目的地へ。
ほろ酔い気分で訪れたのは、創業1924年の「原茂(はらも)ワイン」。
家族経営の小さなワイン醸造所で、地元のぶどうを使った丁寧で心のこもったワイン造りをしています。
オリジナルの特徴的なエチケットのデザインは、三代目の当主・古屋真太郎さんが考案。
家紋やギター(古屋さんの趣味だそう)、干支の兎など、遊び心を感じられるデザインは、作り手→ワインへの愛情そのもの。その古屋さん自ら、テイスティングの極意を教えてくれました。
「白ワインは、まず色味をみるのがコツ。
グリーンがかがった色味だと若く、黄色くなるほど熟成されています。
飴色をこえて茶色味がかっているのは良い熟成とは言えません。
そして大事なのは香り。」と、古屋さん。
その教えに従って、嗅覚に意識を集中してテイスティングしてみることに。
いくみ:
「香りだけに集中してみると、もぎたての桃のような甘い香り、スモーキーな香り、柑橘感のある爽やかな香り…と、ワインによってこんなに違うなんて!
自分の感性をも研ぎ澄まされるような時間でした。」
さらに、「ワインは味だけでなく、“どんな料理に合わせたいか”を想像すると、自分の好みがさらにわかってくるようになりますよ」と教わり、お土産選びのヒントを得たふたり。
エチケットで想像して、色を見て、香りを嗅いで、味わって…。
世界がぐんと広がるような五感をフルに使った味わい方は、すぐにでも試してみたくなります。
親子4代にわたってワイン造りを行なっている「丸藤葡萄酒」は、伝統を守りながら常に革新的な技術に挑戦し続ける、日本を代表するワイナリー。
ワイナリー見学の見どころは、かつてのコンクリートタンクを改修したビン貯蔵庫。
星空のようにきらめく酒石壁(ブドウに含まれている酒石酸とカリウム、カルシウムが結合してできたもの)とステンドグラスの美しさは、ここが貯蔵庫であることを忘れさせるほど。
ここでは、スパークリングワインと赤ワインをテイスティング。
ちはる:
「シャルドネ100%のスパークリングは、酸味とキレが抜群!
一方の赤ワインは、今まで飲んだ中で香りを強く感じ、しかし渋みは少なく柔らかい味わいでした。
『私の性格がよく出てるでしょう』と話す、社長の大村さんの人柄に触れ、“真摯かつ魅力的な人が育んだワインだからこそ、良質なワインになるんだ”と実感しました。先に訪れた原茂ワインの古屋さんもそうでした。」
造った人の顔が思い浮かぶと、一層愛着が湧いてくる。
ちはるが掲げたWISHLIST「日本らしいワインの秘密」の答えは、“人”だったのかも。
足を運ぶたびに発見がありそうな、日本ワインの聖地・牛久市と甲州市。
ワインに向き合う造り手の誠実さやスタイルを感じたり、新しい視点で宝探しのようにワインを選んだり…この場に滞在した時間には、なりより価値があったよう。
お気に入りの日本ワインを、
持ち帰って楽しんでみた
「また、ぶどうが実る季節に訪れたい!」という次なる野心と、自分へのお土産ワインを手に、大満足で帰路についたふたり。
早速、自分で選んだワインを自宅で楽しんでみました。
旅の続きは、おうち時間で。
ツアー参加前から気になっていたのが、NEXTWEEKENDコラム「週末小料理屋、開かない?」のあるレシピ。
いくみ:
「『焼き芋カマンベール』のレシピをずっと作ってみたくて、チーズと相性の良いワインを見つけたい…!という野心があったんです。
シャトー・メルシャン ワイン資料館では、各ワインにカードが添えられていて、どんな料理に合うかが記載され、ワイン初心者でも選びやすいのが魅力。
そこで見つけた『玉諸甲州 きいろ香 ミッドナイト・ハーベスト』 は、柚子やカボスなど爽やかな柑橘の香りが特徴的な白ワイン。
実際に、さっぱりとしたキレの良いワインと、焼き芋カマンベールのこっくりとした味わいのマリアージュがたまりませんでした。」
それだけでは終わらず、2本目に開けたのが『塩山洋酒酒醸造 Delawareおりがらみ』(ぶどうの丘)。
たくさんテイスティングをしたなかで厳選した、デラウェア100%の濁りタイプ。
いくみ:
「デラウェアのイメージから良い意味でギャップのある熟成感!
そして、同時にすっきりした酸味があってとっても気に入りました。
ツアーの余韻に浸りながらの晩酌は、贅沢なひとときになりました。」
ちはる:
「ひとつ目のWISHLISTで出会った白ワイン『2020 グランキュヴェ甲州樽発酵』(ぶどうの丘)は、私の好みのどストライク。
フルーティーさがありながらすっきりとした辛口で、ちょっぴり樽っぽい香りがなんとも言えません。
今までワインに合わせたことがなかった和食にしてみようと、作ったメニューは、焼き鳥と春巻きを主役にしたおつまみセット。
揚げ物の香ばしさや焼き鳥の塩気とワインが相性抜群! 和食×日本ワイン、ぜひトライして欲しい絶品の組み合わせです。」
また別の日には、引っ越したばかりのバルコニーでチョコレートとのペアリングを。
ちはる:
「チョコレートのお供にした『2020 ルバイヤート甲州醸し』(丸藤葡萄酒)は、果皮から抽出された暖色系のピンク色に惹かれて購入したオレンジワイン。
甲州種の特徴を存分に引き出したフルーティーな香りの辛口加減と、糖度が高すぎないカカオの酸味が引き立てあって、最高の味わい…!」
料理とワインの相乗効果で、お酒がするする進んでしまったふたりのように、“持ち帰ったワインに、自分なら何を合わせるだろう?”とあれこれ考えるのも楽しいはず。
日本ワインの持つ豊かな世界は、日々の生活に奥行きを生み出してくれそうです。
いくみ:
ワインの楽しみの幅を広げたい! という野心を存分に叶えられた二日間。
ツアーの前と後では、ワインの選び方にも大いに変化があるくらい、貴重な体験ができました。
ぶどうの素材を生かす醸造法は今なお進化しつづけ、想像をはるかに超えた選択肢がある日本ワイン。
造り手さんによって、ひとつひとつのワインにストーリーがあるところも素敵でした。
日本ワインの生産地の中でも、今回のツアーで訪れた土地が『日本遺産』として選ばれたことにも納得。
そんな奥深い魅力をぜひたくさんの方に知って欲しいです。
ちはる:
牛久市、甲州市という土地と、日本ワインという文化の深いつながりこそが魅力の『日本遺産』。
たくさんのワインを味わいながら、その歴史を深く知ることができて大充実でした。
おいしいワインを作るために、環境づくりから分析し、試行錯誤を重ねてヨーロッパと肩を並べる存在にまでなったワイナリーの現在を、小旅行を兼ねてぜひ体験してほしい!
私もまた、ぶどうが実る季節に行きたいと思います。
そして、初めて和食とペアリングしてみて、こんなに料理にマッチするのか!と、嬉しい発見も。
特別な時にも普段の食卓にも、日本ワインがおうち時間を豊かにしてくれそうです。
一泊二日のツアーで「日本遺産」に足を運び、ツアー前には想像もしていなかった「日本ワイン」の魅力を紐解くことができたふたり。
ひとつひとつのワインには作られた年が刻まれているけれど、人の温もりが根づいた土地を訪れた後は、それ以上の時の重なりを感じることができるはずです。
今回の体験記のワイナリーを訪れてみるのもよし、自分だけのワインを見つけに新たな場所を巡るのもよし。
ワイン好きなあなたが、「面白そう!」「行ってみたい」と思うきっかけになったら嬉しいです。
Text:Hitomi Takahashi
Design : Hitomi Sakano