金曜日の夜。
たまにはひとり映画という予定を入れてみませんか。
今月は、雨の夜にじっくり観たいおこもり映画を3つご紹介します。
『君への誓い』
大切な人について考えたい雨の夜に
幸せな結婚生活を送っていたペイジ(レイチェル・マクアダムス)とレオ(チャニング・テイタム)はある冬の夜、突然の追突事故に巻き込まれ、ペイジは病院へ搬送されることに。
一命は取り留めたものの、夫のレオとの記憶を全て忘れてしまっていました。
自分がペイジの夫であることを証明するために、レオは全力で妻の記憶を取り戻そうとしますが、他人としか思えないレオに不信感を募らせるペイジは、自ら絶縁したはずの以前の婚約者と再会して……、という実話を基にしたストーリーです。
ありがちな泣かせる系の純愛映画かなと思って、公開時話題になっていたもののしばらく観ることを敬遠していたのですが、観始めるとぐいぐい引き込まれてしまって、食わず嫌いはよくないなと思った作品のひとつです。
ある時期の記憶がない中、戸惑いながらも最終的にはちゃんと自分の意思で生きる道を再構築していこうとするペイジの姿はとても美しく、実話を基にしているからこその意外な結末は、現実はドラマみたいにはならないけれど、それも悪くないなと思えるはずです。
監督:マイケル・スーシー
出演:レイチェル・マクアダムス、チャニング・テイタム
発売中
Blu-ray 2,381円+税/DVD 1,410円+税
発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
『シェルブールの雨傘』
雨音を聞きながら美しい世界に浸りたい夜に
舞台は1957年の港町シェルブール。
傘屋の娘ジュヌヴィエーヴ(カトリーヌ・ドヌーヴ)と自動車工場で働いているギイ(ニーノ・カステルヌオーヴォ)は恋人同士。
結婚を約束するほど愛し合っていた二人にある日訪れたのは、ギイへの兵役の招集令状。ギイは戦地へ向かいます。
ギイが発ったあと、ジュヌヴィエーヴには悪阻の症状が。
ギイからの便りはなく音信普通状態が続く中、宝石商のカサール(マルク・ミシェル)はジュヌヴィエーヴの美しさに魅せられ、彼女への結婚を申し込んで……、というストーリーです。
雨といえば傘、ということで選んでみました。
全篇ミュージカルで、建物の色や登場人物の服装も美しい色に溢れているので、一見お気楽映画っぽく見えるのですが、物語は女性の現実的な部分や、人生の思い通りには進まない感じが描かれていて、今月のテーマ #ふかめる日 にぴったりなのかなと思いました。
(なんだか『ラ・ラ・ランド』っぽいなと思っていたら、『ラ・ラ・ランド』の中に『シェルブールの雨傘』をオマージュしたシーンもあるらしく、改めて見比べてみるのも楽しいかも)。
ジュヌヴィエーヴの髪に結んだベロアのリボンやバーバリーのトレンチコートの裏側のチェックがさりげなく見える感じなど、ファッション目線でも楽しめるポイント満載です。(カトリーヌ・ドヌーヴ演じるジュヌヴィエーヴが16歳という設定にも驚きます。おしゃれすぎるし大人っぽすぎる……)。
『シェルブールの雨傘 デジタルリマスター版(2枚組)』
監督:ジャック・ドゥミ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ニーノ・カステルヌオーヴォ
DVD&Blu-ray発売中
4,700円+税
発売元・販売元:ハピネット
『ぐるりのこと』
優しい雨の降る夜に
1993年、小さな出版社に勤める妻、翔子(木村多恵)と、日本画家を目指す傍ら法廷画家として働く夫、カナオ(リリー・フランキー)。
子どもの誕生を控え、幸せな日々を送っていたはずのふたりにある日訪れた悲しいできごと。
待望の赤ちゃんを生まれてすぐ失ってしまうのです。
このことがきっかけで徐々に心を病んでいってしまう翔子と、そんな彼女をどんなときも温かく受け止めるカナオの10年の軌跡を描いた作品です。
雨の日って憂鬱だけれど、家の中から見る雨はなんだか守られている気がして、ほっとした気持ちになるのは私だけでしょうか?
一見社会的にダメな感じのカナオですが、翔子に対する揺るぎない愛情や、法廷画家として描くさまざまな事件の切り取り方など、全篇を通して流れる彼の人間としての温かさが、なんだか家から見る雨の感じに似ている気がして、3作品めに選んでみました。
結婚式を挙げなかったふたりがある日金屏風の前で並んで撮った写真や、だんだんと自分を取り戻してきた翔子が描いた圧巻の天井画など、派手さはないけれど、心にじんわりと響くシーンがたくさん詰まった作品です。
夫婦って素敵だなと思わせてくれるはずです。
監督:橋口亮輔
出演:木村多江、リリー・フランキー
※DVDは編集部私物
おまけ:雨の日に読みたい本
外に出かけるのが億劫になる梅雨の季節は、読書にうってつけのシーズン。
雨の日特有の、普段より自分の内面に向き合いたい気分のときにおすすめの本を3冊選んでみました。
(左)『デザインのデザイン』(原 研哉著)
毎日当たり前に生活しているけれど、実はあらゆるものがデザインされていて、デザインっていったいなんだろうと改めて考えさせてくれる本です。
トイレットペーパーの芯がもし四角だったら、とか、マッチの枝が本物の木の枝だったら、とか、普段気にも留めていないモノのデザインがちょっと違うだけで新鮮に感じたり、新たなメッセージを発信できたりと、デザインの力ってすごいなと思うと同時に、だいぶ大人になって、すっかり凝り固まった頭を柔らかくしてくれる本でもあります。
(中)『愛の縫い目はここ』(最果タヒ著)
去年の12月、ルミネのクリスマスの広告で最果タヒさんの詩(コピー)に出会い、一気に引き込まれてしまって、急いで買った詩集の中のひとつです。
同じ日本語を使っているのに、最果さんの手にかかるとこんなにも美しい言葉になるのかと感心してしまいます。
詩に合わせてフォントがゴシック体だったり、明朝体だったり、縦書き横書きもミックスされていて、「どうしてこれは明朝体にしたんだろう?」と考えたり、「この詩はこういうことを言っているのかな」などと推測したり、彼女の詩に触れることで自分の中にある感情や、物ごとのとらえ方に気づくことのできる一冊です。
(右)『たとえば好き たとえば嫌い 安井かずみアンソロジー』(安井かずみ著、近代ナリコ編)
何年も前に『安井かずみがいた時代』(この本もとてもおもしろいのでぜひ!)という本を読んで、こんなに素敵な人が昭和の時代に日本に生きていたのか!と驚きました。
お母さん世代ならみんな知っている数々の昭和歌謡の作詞を手掛けられていた作詞家の女性です。
この本は、安井かずみさんが1980年代半ばまでに書いた文章をまとめたもので、今読んでも全然古い感じがしなくて、彼女のチャーミングでおしゃれな頭の中が読みやすい文章で綴られています。
一気に読むよりは、少しずつ読み進めていきたいタイプの本かなと思います。
※本はすべて編集部私物