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普段、意外と知る機会のない他の夫婦のこと。
この連載ではパートナーとして生きるふたりの夫婦観を3つのルールをもとに深堀りしています。

今回登場するのは暮らしかた冒険家の伊藤菜衣子さんと夫の裕さん。

『未来の“ふつう”を今つくる』をモットーに暮らしにまつわる違和感をさまざまなアプローチでアップデートする菜衣子さん。

実は2018年にビジネスパートナーでもあった前夫と離婚し、2019年に再婚。
会社員として働く裕さんと6歳の息子さんと暮らしています。

結婚についても違和感を手放している最中の菜衣子さんは、以前と比べて心なしか纏う空気も柔らかくなったよう。
その過程や秘訣を聞かせてもらいました。

 

マッチングからたった2ヶ月でプロポーズ


▲2020年に建てた高気密・高断熱のご自宅にて。

 
ふたりの出会いはマッチングアプリ。
離婚を経験した菜衣子さんは、長く一緒にいられる人と出会う第一歩として結婚生活がうまくいかなかった理由を分析しました。

すると「公私を共にすると、仕事でステップアップした時にズレが生じるため仕事とプライベートは混ぜない」、「一時的に収入が減る産後などは養ってほしい」という条件が見えてきたそう。

 
菜衣子:
「となると趣味だけ共有できてある程度安定収入のある人がいい。考えたこともなかったけど、私は会社員が合うのではと思い至りました。仕事でもプライベートでもそんな方に会うことはほぼないので、理想の人と出会うにはアプリが良いかも?と思って登録したんです」

 
一方、会社員の裕さんにとって出会いは職場や友人の紹介がメイン。
会社名や収入などスペックから始まる関係に漠然とした違和感を覚えていました。

 
裕さん:
「今は企業に勤めているけど、昔コーヒーにまつわる仕事をしていたからいずれ戻りたい気持ちもあって。現時点のスペックだけで判断されると相手にとっては期待外れ(笑)人柄から理解しあいたくてアプリを始めたら菜衣子ちゃんに出会いました」

 


▲コーヒーへのこだわりが垣間見える一角。

 
菜衣子:
「趣味が合う人とマッチングしたかったから、プロフィールは思い切り自分らしい写真を載せていましたね。ポートランドのエースホテルとか畑の写真とか載せてて、カオスだったでしょ?」

裕さん:
「でも興味のある分野だったからひと目見て話合いそうって思ったよ。やりとりの中で共通の知人がいることも判明したよね」

 
当初はマイペースにメッセージを交わしていたふたり。
距離がぐっと近づいたのは菜衣子さんが登壇するイベントに裕さんが足を運んだのがきっかけでした。

 
菜衣子:
「軽い感覚で誘ったのにわざわざ愛知から大阪まで来て、翌日の京都出張も付き添ってくれることに。初対面にもかかわらず、なりゆきで2日間一緒にいて、そのあと連絡が急にマメになったんです。おやおやこれは脈ありかもしれないぞ?と(笑)」

 

▲ふたりで登山に行くのが最近の楽しみ。

 
菜衣子:
「そこからは早かったですね。翌々週に札幌に来た時付き合うことになり、翌月子どもを連れて愛知に遊びに行った翌朝『半年付き合っていたら結婚しよう』ってプロポーズされました。スピード感がすごすぎて、『え、なんでそうなった?』というのが第一声だった気がします」

裕さん:
「僕は自分が楽しいことが何より大事で、自分が楽しければ相手も楽しいと思ってる(笑)菜衣子ちゃんといると楽しいからずっと一緒にいようって決めたんです」

 

完璧な家事より、機嫌の良さを大事に


▲お子さんの指示通りにポーズした菜衣子さんとスルーした裕さん。

 
1つ目のルールは、機嫌を悪くしてまで家事をしないこと。
不満が溜まったら状況を見直して仕組みづくり。
それは完璧な家事より機嫌の良さを大切にしているから。

 
菜衣子:
「できるかどうかは別として私の中に『家事はしっかりしなければ』という呪いがあって、いらだちながら部屋の片付けをすることもありました。でもある時『なんで不機嫌になってまで家事してるの?』って指摘されて」

裕さん:
「不思議でしたね。だって僕も子どもも部屋が整ってなくても気にならない。全員が求めないことをイライラしながらやるより、みんなの希望を整理して最善策を考える方がいい」

 
整った部屋を求めるのは自身の要望であって、家族の協力は当たり前じゃないと気づいた菜衣子さん。
そこからスタンスを変えたのだそう。

 
菜衣子:
「『申し訳ないけど手伝ってもらえると嬉しいな』ってお願いするようになりました」

裕さん:
「そう言われたらやろう!って思える。菜衣子ちゃんが幸せなら僕も子どもも幸せだから」


▲最近の週末は、半径500mくらいの近所で過ごすことが多くなったそう。

 
その上で、無理せず、クオリティを下げず、協力しあえる仕組みを作るのがふたりらしさです。

 

裕さん:

「例えば僕のペースに合わせると洗濯物がどんどん溜まっちゃう。だから1人1つランドリーボックスを用意し、各自洗濯することで『気づいたら自分ばっかりやってる』という不満を解消しました」

菜衣子:
「あと日常使いの食器や調理器具を食洗機対応に変えています。『全部入れるだけだからやってよ〜!』ってお願いしています(笑)」

 

世間の常識と家庭のベストは違っていい

ふたりは夫や妻、父や母という肩書きから連想する役割を無条件に期待しないことを大事にしています。
「夫だからやって当たり前」「母だからしなければならない」という約束事は本来ないはず。
その思考は裕さんの実家に秘密があるそう。

 
裕さん:
「家事がとても苦手な母で。母がやってなくて困ったら、子どもの頃から自分で料理や洗濯をしていたので『母はこれをすべき』という価値観がないんです。一般的な家庭像と違うかもしれないけどちゃんと幸せだったし。だから家族に合ったベストを導き出すことが一番だと考えています」

菜衣子:
「彼の考えにふれて『母は家事をちゃんとしなきゃ』というのは思い込みだと気づきました。彼の実家の皆さんは自己肯定感がすごく高いし、欠点を含めありのままを認めている。そういう姿を見ていると肩の力を抜いても大丈夫って思えます」

朝ごはんの用意は母の役目だと思っていた。
裕さんが小学生のときには自分で準備していたと聞き、どうしても体調が悪いときに子どもにお願いしたら難なくできた。
学校の連絡は母がするものだと思っていた。裕さんの方が得意だから任せてみたら問題なかった。

自分を縛りつけていた鎖が少しずつ外れていく。
世間の常識と家族のベストは異なっていていい。


▲ゴールドVSプラチナの結婚指輪論争の結果、菜衣子さんの指輪は外側がゴールド・内側がプラチナ、裕さんの指輪は外側がプラチナ・内側がゴールドという落とし所に。

 
裕さん:
「学校に電話すると『あ、お父さんなんですね』って驚かれる時もあるけど、僕はストレスを感じないし菜衣子ちゃんはイライラしないし、いいことだらけです」

菜衣子:
「人の価値って役割ではかるものじゃないんですよね。結婚前、私の父が『菜衣子は一緒にいて面白いけど結婚に向いてないぞ。わかってるか?』って言った時、彼が『話していて面白いからそれだけでいいんです』と返していて。家族=話し相手くらいの捉え方でいいんだと思えました」

 

「見える化」でみんなが嬉しい週末に


▲やりたいことリスト2週間分。「子どものやりたいことって想像もつかなかった」と裕さん。

 
最後のルールは、家族一人ひとりの幸せが増える方法を選ぶこと。
共に過ごすことを重視して誰かを犠牲にするのではなく、それぞれの選択を尊重するようにしています。

 
菜衣子:
「家族だからといって全員の妥協点を選ぶことはあまりありません。やりたいことが違うので、山登りは裕くんと子どもで、部屋の模様替えは私だけで、などいい意味で割り切っています」

 
だけどバラバラではなく、とても仲良しな3人。
その秘密は「やりたいことリスト」。
毎週土曜に各々やりたいことを紙に書いて見える化することで、週末の満足度がぐんと上がっているそう。

 
菜衣子:
「やりたいことを書き出して、叶えるために週末の動き方を調整します。上の段にそれぞれがやりたいこと、下の段にお願いしたいことを書いています。例えば私が『DIYの材料を買う』と書き、さらに裕くんのところに『車を出してほしい』って書いたり。子どもから『すごろくを一緒にやってください』って書いてあったりね」


▲取材中、裕さんが焼いていたパン。コロナ禍で突如パン作りに目覚めたそう。

 
裕さん:
「昼寝したいとか小さなことも書くんです。普通に寝ていたら『なんで家事手伝ってくれないの』ってケンカになりかねないけど、書いておけば尊重してもらえる(笑)日曜夜、リストに全部丸がつくと達成感あるんですよ」

 
ふたりには今年の秋、お子さんが生まれます。
「環境がガラッと変わるから夫婦の危機かもよ?」とチャーミングに笑う菜衣子さん。

対する裕さんの言葉にらしさがつまっていました。


▲弟が楽しみで、いろいろ気づかってくれるのだとか。

 
裕さん:
「それでもお互いがごきげんでいることを大事にしたい。子どもが生まれたり思春期になったりいずれ巣立ったりいつだって状況は変化するけど、ごきげんならふたり一緒にいられるから」

菜衣子:
「そうだね、どのフェーズで切り取っても『この人がパートナーで良かった』って思える夫婦でいたいね。一緒にいたい同士であり続けよう」

 


▲終始、視線を合わせながら話すふたりが印象的でした。

 

実は記事を執筆している私も妊娠中。
はじめての経験と心身のゆらぎに直面し、夫婦関係が変わりゆくことへの恐怖も少なからずあります。

でもふたりが大事にする「ごきげん」「固定観念にとらわれない」「仕組みづくり」を意識できたら、どんな夫婦にとっても変化は怖いものではなく、暮らしをアップデートするいい機会なのかもしれません。

取材を通してポンと背中を押してもらえた気がしました。

 

Text:Nao Tadachi
Photo:菜衣子さん、裕さん、息子さん、@konditori_japan
Edit:NEXTWEEKEND

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