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意気込んで一回使っただけ、いつも同じ料理にしか使わない。

……そんなスパイスがキッチンに眠っていませんか?

賞味期限がきてさようなら、なんてことになる前に試してほしいのが、慣れ親しんだ家庭料理にひとふりするだけのスパイスの魔法!

スパイスが身近に感じられて、手軽に楽しめるアイデアを教えてくれたのは料理研究家の中本千尋さん。

自身でもオリジナルスパイスの商品開発を手がける、スパイスの達人です。

「こんなに簡単でいいんだ!」という使い方のコツを知れば、キッチンの戸棚に眠っているスパイスも、知らなかったおいしさと出会えるはずです。


中本千尋さん

料理研究家・フードデザイナー。大阪出身。フレンチレストランや短大の調理師学科のアシスタント講師などを経て独立。ワークショップ、レストランのメニュー監修、セミナー、レシピ動画配信など幅広く活動。自身のプロダクトブランド「Dish(es)」を主宰。過去に間借りカレー屋をしていた経験もあり、今ではオリジナルスパイスの商品を開発するほどのスパイス通。

 

キャラ別で覚える!
使える基本スパイスのプロフィール帳

中本さんが「まずは、これを持っていると便利!」とおすすめしてくれた5種類の基本スパイス。

名前はわかるけど香りや特徴を実は知らない……という方のために、今回はスパイスをわかりやすくキャラクター化してご紹介します。

まるで友達のようにスパイスに親しみが湧いてきて、これならきっと覚えられるはず。

 

カルダモン「みんなが憧れる爽やか系の上品なお姉さん」

カルダモンは、ショウガ科の実をさやごと乾燥させたもの。
柑橘を思わせる爽やかさ、高貴な香りが特徴。別名・スパイスの女王とも言われます。

中本さん:
「スーッと爽やかで強い香りのカルダモンは、ピリッとした清涼感はありますが辛味はありません。油分のある乳製品やスイーツと相性がいいんです。例えば、市販のチーズケーキにカルダモンパウダーをひとふり、それだけで大人のスイーツに。毎日飲むカフェラテに加えると、清涼感のある風味になって気分も変わります。そんなカルダモンを擬人化するなら、爽やか系のお姉さん。みんなが憧れる、清々しいさっぱりした魅力と華やかさを併せ持った美人さんのイメージです」

 

クミン「みんなに愛される元気っ子」

いわゆるカレーらしいエスニックな香り、といえばクミン。
食欲をそそる香ばしさと淡い苦味が、料理に深みのある旨味を足してくれます。

中本さん:
「パウダーもホール(クミンシード)もどちらも手軽に使いやすく、いろいろな食材に合う万能スパイス。その特徴の通り、みんなに愛される元気キャラなイメージです。キャロットラペやトマトサルサなど、前菜にひとつまみ加えるだけで本格的な味わいに。カリカリとした食感を出したい料理の時はホールを、フムスのような舌触りの良い料理の時はパウダーを、と使い分けるといいですね」

 

コリアンダー「妹キャラな軽やか系ガール」

スパイスカレーに凝ったことがある人ならば、必ず持っているのがコリアンダー。
種子を乾燥させたもので、パクチーと同じ植物ですが、パクチーの葉のような癖はなく、香りも爽やかでマイルド。

中本さん:
「コリアンダーは、甘味のある野菜と相性抜群なのですが、特におすすめしたいのは、じっくりとローストして甘みが増した人参。無水鍋に、人参を切らずに丸ごと入れて、荒めに潰したコリアンダーを散らして蒸し焼きに。それだけでホクホクと最高においしい一品になります。粒状のコリアンダーシードを軽く砕いてもいいし、手軽にパウダータイプを使ってもOK。私から見たコリアンダーの印象は、妹キャラな可愛い女の子ですね」

シナモン「色気たっぷりの自己主張強めキャラ」

甘みを引き立てる香りから、お菓子作りのイメージがあるシナモン。
実はカレーにも欠かせないスパイス。スティック状のホールもよく使われます。

中本さん:
「独特の甘くエキゾチックな香りから彷彿されるのは、色気たっぷりで自己主張強めのキャラクター。マトンや牛肉などの肉料理を、華やかなプレートに格上げしてくれます。知れば知るほど癖になる、魅力的な存在ですね。前述の爽やか系お姉さん・カルダモンともとっても仲良し。その二つを茶葉に加えて作ったチャイは、格別な味わいです」

 

クローブ「一本筋が通った、頼りになるクール男子」

「丁子(ちょうじ)」という漢方薬としても利用されるクローブ。
釘のような形で、鼻から抜けるようなツンとした強い香りが特徴です。

中本さん:
「スパイスの中でも特に刺激が強く、甘くて濃厚な風味があるクローブ。肉の臭み消しになることから、自家製ソーセージを作る時にも重宝します。赤ワインとも抜群に合うので、煮込み料理もいいですね。使い方の注意点としては、料理を作る際にクローブをパラパラと鍋に入れると、後から取り出すのが大変なので、ニンニクなどの食材にグサグサと差して使うと◎。余談ですが、クローブはゴキブリ対策にも効果的。苦手な虫も追い払ってくれる、まさに頼れる男子! なスパイスです」

 

どのキャラにも共通しているのは、芯の強さはあれど、協調性があること。

隣の人を引き立ててくれる(=素材の良さを引き出す)優しさを持っているスパイス界のキャラクターたち。

「なんだか愛すべき存在に思えてきた……」となったら、スパイスの基本をマスターしたも同然。

これらを実際に使ってみることで、さらなる相性の良さを発見したり、グルーピングができたりと、ドラマのようなキャラクター相関図が出来上がるかも!?

 

和食や洋食、ドリンクにも。ふだんの家庭料理に使えるスパイスって?

「日本にはカレーが好きな人はたくさんいますが、まだまだ家庭に根付いているわけではないスパイス。でも、普段のおうち料理にもスパイスは合うんです。スパイスを上手に活用すると、ひとワザある味わいに」と中本さん。

そこで、これからの季節に試してみたい「家庭料理×スパイス」の鉄板の組み合わせを教えてもらいました。

 

洋食派に「ホワイトシチュー×ナツメグ」

中本さん:
「冬の足音が近づいてくると、食べたくなるのが温かなホワイトシチュー。牛乳やバターを使ったクリーム系の煮込み料理には、ナツメグを少量加えてみてください。ナツメグは、縁の下の力持ち的スパイス。乳特有の臭さを和らげつつ、独特の甘さとほろ苦さが加わることで、手をかけたレストランの味へと格上げしてくれます。スパイスを加えるタイミングは、シチューをコトコトと煮込む段階で。ナツメグがダマにならないように、しっかりかき混ぜるのがコツです」

洋食メニューの仕上げに黒胡椒やパセリをぱらっと……そんな感覚で、センスの良い一品に見せるスパイスがあるかを聞いてみると、「それならパプリカパウダーがいいですよ」と中本さん。

「鮮やかな赤色のパプリカパウダーですが、癖も辛味もありません。ほんのりと甘い風味が香るだけなので、料理の味のじゃまをせず、トッピングに使いやすいスパイスです。見た目に彩りを加えたい時にぜひ使ってみてください」

 

和食派に「魚の照り焼き×コリアンダー」

中本さん:
「素材の味を生かす調理が基本の和食ですが、ぶりの照り焼きのようなしっかり味付けをした魚料理には、コリアンダーがいい仕事をします。山椒感覚でひとふりすれば、魚の生臭さを消してくれ、甘辛いタレと相まって風味がアップ。同じような使い方であれば、台湾発祥のスパイス、馬告(マーガオ)も和食使いができるスパイス。黒胡椒のような見た目で、山椒のような辛味を持ちながらも、レモングラスのような爽快な香りが最大の特徴。日本では馴染みがないマーガオですが、照り焼きや鰻の蒲焼きなどに合うので、そちらも試してみてください」

 

お酒好きに「ジン×カルダモン」

中本さん:
「スパイスは、アルコールやお湯に溶けやすい性質。なので、お酒やお茶など、ドリンクのスパイシーな香りづけにもうってつけです。私のお気に入りは、お手頃価格のジンにカルダモンのホールを入れたカルダモンジンウイスキーにシナモン、カルダモン、コリアンダー、ペッパーを加えて割ったスパイスハイボールもおいしい。スパイスは保存性を高める効果もあるので、自家製の梅酒を仕込む際にクローブやカルダモンを入れるのもいいかもしれません。芳醇な香りが漂う、おしゃれな風味の梅酒になると思います」

おまけ:「スパイス×ハーブ」の合わせ使い

また、中本さんが「スパイスと合わせ使いして欲しい」というのがハーブ。

「ハーブとスパイスは、どちらも臭み消しや香りづけに使う植物同士。葉っぱや花の部分=ハーブ、樹皮や種、実、根の部分=スパイスと分類しているだけなので、一緒に使って合わないわけがないんです。例えば、カレーを作っていて“なにか味が物足りないな”という時。さらにスパイスを足して複雑にするよりも、ローリエやタイムなどのハーブを加えてみると、爽やかな風味が混じり合って、おいしさの幅が広がります。市販のハーブソルトなどを使っても、味がビシッと決まっていいと思いますよ。お互いの魅力を繊細に引き立て合える仲なので、覚えておくと便利です」

馴染み深い料理が、スパイスを加えることで目新しいものへと変身したり、スパイシーで芳醇な香りが漂うお酒で、いつものおうち時間を特別に感じたり。

どれもテクニック不要のお手軽さなのに格段においしくなる、それがスパイスの魔法。

自分でも色々試して“〇〇×スパイス”の新たな発見を探してみるのも楽しそうです。

 

保存法をマスターして、スパイス生活を楽しむ

気軽にアレンジ使いをできるようになったら、スパイスは我が家の定番調味料!

スパイスをいつでも使えるように、鮮度が保てる方法を知っておきましょう。

中本さんに、スパイスに関する素朴な疑問を聞いてみました。

Q スパイスに賞味期限はありますか?

中本さん:
「賞味期限はありますが、消費期限はありません。乾燥させたスパイスは、腐ることがないからです。ただ、香りも色も徐々に劣化していくので、できるだけ早めに使い切りたいですが、どうしても残ってしまうという方もいると思います。もし眠っているスパイスを発見したら、試しにフライパンで炒ってみてください。固まりやすいコリアンダーやパプリカパウダーなどは、乾煎りして熱を通すことで香りが蘇ります。賞味期限が切れたスパイスも救済できます」

Q スパイスに適した保存方法は?

中本さん:
「スパイスを劣化させる原因、直射日光、熱、湿度を避けることが大切です。光や熱で風味が変化したり、湿気を含むことでカビや虫が発生したりしてしまいます。冷蔵庫で保存する方もいますが、出し入れした際の温度差で湿気が出てしまうので避けた方が良いかもしれません。また、スパイスは空気に触れると香りが散っていってしまうので、密閉した状態で保管することが基本。保存容器は色々な素材がありますが、透明のガラス製の瓶などがおすすめ。におい移りせず、スパイスの成分で容器が劣化することもないので、長期保存にも適しています」


▲中本さんの主催するDish(es)では、老舗茶筒メーカーさんとコラボレーションしたブリキの茶缶も販売中。湿気をさえぎり光を遮断する構造のため、茶葉はもちろんスパイスの保存にも最適。

 

スパイスのことが前よりちょっとわかるようになったら、あとは実践!

最後に、中本さんからのアドバイス。

「まずは難しいことを考えずに、気になるスパイスを手に取って、香りを嗅いでみてください。“こんな香りだったのか”“あの香りに似ているかも?”と想像力を膨らましてみると、使うことがどんどん楽しみになるはずです。気軽にひと振りするだけで、料理の幅がぐんと広がるスパイス。豊かなおうち時間をもたらしてくれると思います」

使わなきゃ!じゃなくて、使いたい!というワクワクな感情で、心と体が満たされるスパイス生活をぜひ始めてみてください。

Text : Hitomi Takahashi
illustration:Chiharu Nikaido
Edit : Tomomi Watanabe

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